「インフレ」は「デフレ脱却」に直結
その一方で、政府にとっては、それほど単純ではありません。現状をインフレと認めれば、事実上、「デフレ脱却」を認めたことになります。「デフレ脱却」という言葉は、様々な政治的な意味を持っており、「デフレ脱却」となれば多方面に影響が及びます。石破総理は、これまでの政府見解を、忠実に表現しているのです。
政府は「デフレ脱却」の定義として、単にデフレの状態ではなくなるだけでなく「デフレに後戻りしない」ことを挙げています。
将来、デフレになるか、インフレになるかなど、誰にもわかるはずはないのですが、90年代末からのデフレが、余りにも長く、深かっただけに、「後戻り」しないという確証が、政治的には必要です。万一、デフレ脱却宣言後に後戻りなどしたら、政権は吹っ飛んでしまうでしょう。これが第1の理由です。
「デフレ脱却」に至らない方が好都合
第2理由は、現在の様々な政策スキームが、「デフレ脱却」を目標に組み立てられていることです。毎年、繰り返される経済対策、つまり財政の大盤振る舞いも、「デフレ脱却」のためです。
経済対策の結果、延々と続いている補助金は、デフレ脱却となれば、存続理由を失ってしまうかもしれません。利上げが始まったと言っても、まだまだ低い金利も、「デフレ脱却」目標の賜物です。「デフレから完全には脱却していない」という状態は、むしろ政治にとっては、都合が良いと言えるでしょう。
そもそも「デフレ脱却」と言う際の、「デフレ」という単語には、単に、物価の動きだけでなく、賃金が上がること、売り上げが伸びること、失業が減ること、経済が成長することなど、様々な意味が込められています。
デフレ時代が長かっただけに、「デフレ脱却」は、「経済がうまく回っている」ことのように使われているのが実情です。そのことも、「デフレ脱却宣言」を難しいものにしています。