SDGsについて考えるシリーズ「つなごう沖縄」。今回はビール造りの際に排出される、「麦芽かす」を生かした循環型農業についてお伝えします。
おいしそうに餌を頬張る牛たち。ここ、もとぶ牧場では県内最大規模となる、約2000頭の牛を飼育しています。
▼もとぶ牧場 坂口大河 取締役
「牛の嗜好性 が高くて、たくさん食べてくれる。なので、肥育している私たちとしては、餌を食べてくれないと大きくならないので、ありがたい」
もとぶ牧場では、一般的な餌とは違うものを牛に与えています。
▼もとぶ牧場 坂口大河 取締役
「オリオンビールの工場が名護市にあったので、そのビールかすを活用しようということで」
牛がおいしそうに食べているのは、ビール造りの際に排出される「麦芽かす」なんです。
パンパンに膨れ上がる袋の中で熟成される良質な飼料
▼オリオンビール生産本部 儀間敦夫 製造部長
「ここが、仕込みの部屋になります。たくさんの窯がありますけど、こういった窯を使って麦汁を作る工程になります」
オリオンビール名護工場。年間7万2000キロリットル、ビールの大瓶で換算すると1億1000万本余りを製造することができます。
▼オリオンビール生産本部 儀間敦夫 製造部長
「麦汁ろ過槽というところで、この麦汁を搾り取るんですけど、最後に残ったかすが、いわゆる『ビールかす』と呼ばれています」
この工場で排出される麦芽かすは毎月約300トン。以前は活用方法も少なく、農家に堆肥として引き取ってもらうか、それでも余ったものは費用をかけて処分するしかありませんでした。
この麦芽かすをなんとか有効活用しようと、乳酸菌を混ぜて発酵させ「サイレージ」と呼ばれる良質な飼料を作り出しています。
▼平田俊一 記者
「できたばかりのサイレージを触ってみたいと思います。温かいですね。香ばしい匂いがします。餌になるのもよくわかる匂いですね」
▼オリオンビール生産本部 儀間敦夫 製造部長
「脱水するだけでは、日持ちしないので、乳酸菌を入れることによって、さらに乳酸発酵するので、消費期限が半年くらいのびるのと、牛の食いつきもよくなるということもあり、乳酸菌を入れてサイレージという飼料用、牛の餌を作ることになったのが2010年くらい」
この麦芽かすに目を付けたのがもとぶ牧場でした。元々、1990年代には麦芽かすの飼料化に成功していたもとぶ牧場。それ以降改良を重ね、今では独自の発酵菌に加え、サトウキビの糖蜜も混ぜ合わせるなど、オリジナルの配合を編み出し、麦芽かすを質の高い飼料へと生まれ変わらせています。
▼もとぶ牧場 坂口大河 取締役
「発酵菌も沖縄の温暖な気候にあった菌を使わないと、ちゃんと発酵してくれなかったり、配合飼料やビールかすの量、水分量の試行錯誤があって、今の形になっています」
袋がパンパンに膨らんでいるのは、しっかりと発酵が進んでいる証。これだけの量があっても、1週間で無くなってしまうそうです。
毎日牛の世話をする担当者も、その違いを実感しています。
▼もとぶ牧場 内田潤也 副場長
「麦芽かすは食物繊維を多く含んでいるので、それに独自の発酵飼料、乳酸菌を取り入れています。それを牛に与えて、肉になった時に甘みと柔らかさが出るのが、もとぶ牛の特徴となっています」
繊維質を多く含み、発酵させた麦芽かすは思わぬ副産物も生み出します。
▼もとぶ牧場 坂口大河 取締役
「ふんの処理施設ですけど、臭いがないんですよ。これが発酵飼料のおかげだろうと」
もとぶ牧場では牛の排泄物を発酵させて堆肥として商品化し、自社で袋詰めまでして出荷しています。
▼もとぶ牧場 坂口大河 取締役
「発酵温度が85度くらいまで上がるので、例えば植物の種子が入っていたら、熱でなくなってしまうほどの温度です。発酵飼料はいい餌なので、ふんの臭いもそうですけど、堆肥自体もいい堆肥になって草木や野菜が青々しく、みずみずしく育ってくれる」
ビールの製造過程で排出される、麦芽かすを利用した循環型農業。オリオンビールと、もとぶ牧場のこうした取り組みはSDGsの目標につながっています。
▼もとぶ牧場 坂口大河 取締役
「牛の腸内環境、牛自体のストレスもそうですけど、サシ(赤身の間に入る脂身)に入ってくるうまみ、もとぶ牛としてのおいしさ、また脂がくどくないもとぶ牛というのが、ビールかすを利用した発酵飼料のおかげで、実現できました」
▼オリオンビール生産本部 儀間敦夫 製造部長
「ビールかすは、ビールを造るうえでの副産物ですよね。それが牛の餌とか、場合によっては堆肥とか、有効活用できるというのは、我々企業の存在意義もあるかなと思っています」
牛だけじゃない!麦芽かすでウメェ~お肉に
県主催の品評会で見事ナンバーワンに輝いたヤギをはじめ、約20頭のヤギを飼育する石原昌司さん。一般的な餌に加え、石原さんがヤギに与えているのも麦芽かすなんです。
栄養価が高いのはもちろん、輸入飼料が高騰する中、“県産品”の麦芽かすを重宝していると言います。
▼ヤギ農家 石原昌司さん
「飼料も価格が上がったり、ロシアがウクライナに侵攻してトウモロコシの価格が上がったために、飼料が高騰したので、それを改善するために子牛用の餌にビールかすを混ぜてあげています」
安定的に仕入れることができる麦芽かすは、沖縄のソウルフード、ヤギの生産にも役立てられています。
▼ヤギ農家 石原昌司さん
「ビールかすを与えてから、ヤギ肉の赤みがきれいで脂肪分も少なく、いいなということで、3年目になります」
石原さんはほかにも、おからと麦芽かすを混ぜた餌をヤギに与えていて、肉質の改善にもつながっているということです。