「お土産」から見える朝市の女性たち
「ファンシー絵みやげ」の名付け親であり、平成文化のひとつとして収集・研究している山下メロさんは、「残っているファンシー絵みやげの多さからも、バブル期にいかに輪島が観光でにぎわっていたかが感じられる」と分析します。
当時、多くの観光地では、お土産雑貨の生産コストを下げるため、都道府県や地方レベルの地名を入れて、より広い地域で売る手法がとられていました。また、ターゲットが子どもであるため、その地域に生息していない動物のイラストも多用されており、輪島のように「その土地だけ」の特徴をとらえたお土産をつくることができるのは、経済的に成功していた観光地の証ともいえます。
こうしたなか、輪島では「輪島朝市」という文字が入ったキーホルダーなどの雑貨が多く見つかっているといいます。今回筆者が見つけたキーホルダーについても、山下さんは「裏に能登の言葉が書かれているなど、かなり凝って作られていると思います」。
また山下さんによると、輪島のお土産には、イラストにも珍しい特徴があるそうです。
「ファンシー絵みやげでは、海であればタコやカニ、山であればキツネというような生き物のほか、その地域の偉人などがモチーフになることもあります。ただ、輪島朝市のお土産には『おばあさん』のイラストが描かれたお土産が多く見つかっています」

山下さんのコレクションには、魚介類を売る女性のキーホルダーや、前掛けに「輪島ASAICHI」と書かれたおばあさんの状差しなどがあります。こうした特徴は朝市が有名な他の観光地でも見られないとして、「輪島朝市とそこで働く女性たちが、輪島のアイデンティティのひとつであったことがわかる」と話します。
「ファンシー絵みやげが作られた当時は深い意図はなかったかもしれませんが、結果的にその土地の文化を記録する役割を持っていると感じています」
朝市のにぎわい、もう一度
朝市通り周辺地域の被災した建物の公費解体は9割以上が終わり、年度内に撤去作業が完了する見込みです。検討が進められている復興計画では、「復興のシンボル」として輪島朝市周辺の再生が掲げられています。
2024年末に提出された計画案によると、輪島朝市周辺を新しく生まれ変わらせるなどの「再生期」は2027~2030年に設定されています。朝市通りににぎわいが戻ってくるのは、もう少しかかりそうです。
「何年後になるかわからないけど、私が生きている間になんとかもう一度、朝市に座りたいね」
取材の最後に語った福谷さんの言葉です。1日でも早く、輪島朝市のみなさんの願いが叶うよう、復興が進むことを願わずにいられません。

(TBSラジオ・ニュース部 野口みな子)