DeepSeekはなぜ開発できたのか
新興中国企業が高性能AIをなぜ低コストで開発できたのでしょうか。
まず指摘されているのが、オープンソース型という開発手法です。自社のイノベーションをオープンソースとして公開し、広く改良を重ねていくと共に、逆に、公開されている他社のモデルも活用していくやり方です。
その際に「蒸留」という手法を採用したことも注目されています。別の高性能のAIを先生役に据えて、一からデータを学習させるのではなく、先生役の大規模な学習内容を小規模なモデルに反映させることで、開発効率を向上させることができたと言われています。
アメリカは前のバイデン政権下で、高性能半導体の対中国輸出規制を始めました。エヌビディア製半導体では、2022年に最新のAI半導体「H100」の対中輸出が規制され、翌23年には、性能を落として対中輸出を続けていた「H800」も規制対象になりました。ディープシークは輸入可能だった時代に手元に集めた2048個の「H800」をフル活用したと、ウオールストリートジャーナル紙は伝えています。
「データ不正利用」疑惑に、対中規制強化の動きも
こうした事態にアメリカ国内では危機感が急速に高まっています。
早くも米議会では、これまでの対中半導体規制は不十分だったのではないか、との声が上がり、早くも規制極化を求める動きが出てきています。
また、そもそもディープシークが、米オープンAI社のデータを不正利用した疑いも持たれています。ディープシークがオープンソースのAIモデルをフル活用したことは、先に述べた通りですが、ブルームバーグ通信は、ディープシークがオープンAI社の非公開の大規模言語モデルのデータを盗み出し、利用した疑いがあると報じています。
DeepSeekは安全なのか
さらに、TikTokでも問題になっているように、中国のプラットフォームが果たして安全なのかという警戒感も急速に高まっています。中国企業は、中国政府から求められれば、個人情報を含めた保有データの提出を拒めません。
このためイタリアやアイルランドのデータ保護当局が、すでに、ディープシーク社に対し、ユーザーのデータの取り扱いについて説明を求めた他、オーストラリアの科学相も公に安全性への懸念を表明しました。ブルームバーグ通信は、イスラエルのサイバーセキュリティー企業の話として、すでに世界で政府と取引のある数百社がでぃぷしーくの使用を制限したと報じています。
戦略的な技術の分野で対中国の競争優位を保持することは、今のアメリカの最重要の国家戦略であり、AIの開発と利用は、その戦略そのものです。
第二の「スプートニク・ショック」を受けたアメリカが、今後どのような手を打つことになるのか、米中関係、ひいては国際情勢にも、大きな影響を及ぼすことになりそうです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)