どちらに肩入れする?「わたしの宝物」
田幸 「わたしの宝物」(フジ)は批判も多かったですが、よくつくられていると思いました。田中圭さん演じるモラハラ夫にかごの中に閉じ込められて、夫婦仲も完全に冷え切っている松本若菜さんが、幼なじみの男性と再会して、その人の子どもを授かってしまう。結構刺激的な話ですが、田中さんに翻弄されまくりました。
田中さんのモラハラ夫がうまいんです。嫌なやつをやらせるとやっぱりこの人はうまい。典型的な内弁慶で、外であらゆる人に気を使ったストレスを家の中で発散させてしまっている。胃が痛くて具合悪そうで、でもそんな弱音は家の中で吐けない。
そこから、生まれてきた赤ちゃんを抱いた重さによって、その存在を実感するのです。重さと温度と、あれすごくわかる感じがする。そこで、今までの理屈を超えて、たまらなくなって泣き出す田中さんの芝居。あの1話の変化、田中さんを見るためだけでも、このドラマを見るべきだったと思います。
田中さんのお芝居がうま過ぎるせいで、途中から田中さん寄りで見てしまう人が多かった。これは制作者の誤算だったかもしれません。もともとの原因は田中さんにあるのに、田中さんサイドで見るというのは、見方としては違うのではないかというぐらい、役者さんの力に引っ張られました。
倉田 新しい命を授かったことで、心境が変わっていく演技はすばらしかったですが、それまでのモラハラぶりが強烈過ぎて、いい人に転換した後、かつての自分を振り返ってどういう気持ちなの、ということが気になってしようがなかったですね。
モラハラをやっていた理由もわからなくはないのですが、そこにイマイチ共感できず、あんなにひどい夫がいたら、それは別の男性に引かれちゃうよなと、私は逆に松本さん側に共感の方向が向かいました‘。