「ベイビーわるきゅーれ」と「3000万」
田幸 「ベイビーわるきゅーれエブリデイ!」がいいなと思いました。珍しいパターンで、映画から始まって、テレビドラマをやって、また映画の新作もやる。殺し屋の女の子二人の、友情でもない、恋愛関係でもない、特別なつながりが魅力的です。
原作、脚本、監督の阪元裕吾さんはまだ20代で、若い才能が発揮されているところが、すごくテレ東らしい。昨年は若い監督の映画の当たり年で、20代、30代前半の方がヒット作を出している。そういう方の作品を連ドラへ持っていくことが増えるといいなと思いました。
影山 「3000万」は評価が高くて、いい作品だとは思いますが、僕ははまり切らなかった。WDR(複数の脚本家が分業して執筆するスタイル。海外では一般的)という試みはいいと思いますが。
田幸 企画の方にインタビューさせて頂き、楽しく見ていましたが、「WDR」という海外ドラマの手法でのドラマ作りは面白く、さすがのクオリティーでした。複数脚本家が手間をかけて台本を練りあげているだけに、次の展開が予測できないハラハラ感があり、役者さんもそれを楽しんで演じている印象で、非常に面白いのですが、海外ドラマの手法であるだけに「だったらNetflixで海外ドラマを見るからいいや」になってしまうところもあるかもしれません。
例えば「スロウトレイン」「海に眠るダイヤモンド」の野木亜紀子さんのように作家性の強い脚本家一人が全編書き上げる作品のほうが日本のドラマとしては受け入れられやすいのかな、と。そういう脚本家さんが限られてしまうのは否めませんが。
倉田 最後まで楽しく目が離せないドラマでしたね。子どもがお金を持って帰ってきちゃうというささやかな出来事から、人生がどんどん悪い方に転がっていく。そこが目が離せないポイントなんですけど、一方で、引き返すポイントはいっぱいあったじゃないかと思ってしまう。
お金を取り返しに来た男の人を安達祐実さんが殴ってしまい、その死体を湖に落とすくだりがありましたが、お金を盗って自分のものにすることと、反社でもない一般の人が暴力を振るうことは、あまりにかけ離れていて、後半は乗れなくなってしまいつつ、結局、おもしろいはおもしろいので最後まで見ちゃったという感じでした。
<この座談会は2025年1月7日に行われたものです>
<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など
田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。
倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。