「能登だから」ではなく、ただそこで生きる人たちのために
1年経った被災地。がれきだらけだった町も少しずつ解体が進み、今は空き地が目立ちます。完全とまではいかないもののインフラの整備も進んでいます。
ただ、家を失い、この土地から離れていった人が全員戻ってくるかというと、そうではありません。人口流出は地震以前から問題視されていたことですが、能登半島地震をきっかけにいよいよ歯止めが利かなくなりました。
奥能登地域はすべてが「消滅可能性自治体」です。言葉にするのは嫌ですが、能登は「終わりゆく土地」だと私は思っています。じゃあ、見放すのか。そうは思っていません。
「のどかで、美しい自然が能登の良いところ」と話す人をよく見かけます。「この景色を守っていかなければいけない」と話す人もいます。確かに、美しい自然はありますし、守りたいとも思います。でも、本当に守らなきゃいけないのはそこじゃない、と私は言いたくなるのです。
終わりゆく土地だろうがなんだろうが、今日もそこで生きている人達がいます。仕事をして、スーパーに行って、ご飯を食べて寝る。新しい命が生まれることだってあります。そういう至極当たり前の生活を守ってほしいんです。
能登にいる人にとってこの土地は観光地でも何でもなく、住まいのある、日常を送る場所です。今、この文を読んでいるあなたが住む場所と何ら変わりありません。
「能登だから」という特別なこともありません。いつか人がいなくなるかもしれない、仕事がなくなるかもしれない。大きな地震が起きるかもしれない。それでも今、能登で生活を続ける人たちのために、少しでも何かできることをしていくことが大切なのではないかと考えています。
能登を離れた私にできることはやはり、放送業界に携わり発信し続けることしかないと考えています。故郷が、被災地が、どうなっていくのかを1人でも多くの人の目に留まるよう、発信し続けていきたいです。
〈執筆者略歴〉
平 歩生(ひら・あゆむ)
1997年 石川県能登町生まれ
2020年3月 金沢大学 卒業
同年4月 北陸放送入社 報道部配属
警察担当として事件事故を取材し司法キャップを経て
2023年~警察キャップ
2024年1月 能登町の実家へ向かう道中で能登半島地震が発生し被災
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。