「赤信号殊更無視」は認められるのか、司法の判断は…

事故発生から1年以上たっても起訴されず、加害者からは直接の謝罪もありませんでした。波多野さんは信号無視など加害者の悪質性を検察に訴え続けました。その結果、2021年3月、加害者の運転手が「赤信号を殊更に無視した」として、より量刑の重い危険運転致死傷の罪で在宅起訴されました。そして、1年後の2022年3月に東京地裁で裁判が開かれました。

娘をはねた車の運転手は捜査段階では、交差点よりだいぶん手前で赤信号を認識し、それをあえて無視して交差点に進入したと供述していたということですが、公判で、交差点直近で赤信号を認識したと主張を変えました。
争点は運転手がどこで赤信号を認識したのか。つまり、赤信号を認識した地点が、信号機の直近12.4メートル(事故後1年半以上経過したときの実況見分で供述)なのか、停止線よりもだいぶん手前の27.9メートル(事故の11日後の実況見分で供述)なのかで、赤信号を「殊更無視」したといえるかどうでした。

2022年3月22日。東京地裁は、加害者が27.9m地点で赤信号であることを認識していたとし、急ブレーキをかけて交差点に進入したとしてもそれが直ちに危険が発生するような状況でもなかったとして、赤信号の「殊更無視」と認定。危険運転致死傷罪が成立するとして、懲役6年6か月を言い渡しました。

波多野さん「赤信号で交差点内に、他の車がいないうちに車線変更してしまおう」と考えた加害者の動機からして、停止線のだいぶ前から、右車線の状況は確認をしていたはずだと。少なくとも、車線変更する際には、 右のサイドミラーで右車線の状況を確認していることは間違いないと思っておりました。 すなわち、右車線に赤信号で停車中の車列があるのは確認して、その上で交差点に 進入したのであれば、これは確定的な信号無視だろうというふうに考えていました」