IOWNが放送業界に与えるインパクト 

2024年現在、IOWN構想は研究開発フェーズから実用化に向けた実証実験の段階へと移行。NTTは2030年の本格展開を目指しており、様々な企業や団体とパートナーシップを結び、具体的なユースケースの開発を進めています。 

大きな転換点を迎えている放送業界にとっても、IOWNは放送設備や番組制作のあり方を根本から変革する可能性を秘めています。その影響は、技術面から経営面まで広範囲に及ぶと予測されます。

〈1〉超高速・大容量・低遅延ネットワークが設備配置の自由度を向上
〈2〉オンデマンド接続(注1)による回線コストの最適化
〈3〉リモートプロダクション(注2)によるリソース不足問題の解消

(注1) 必要な時だけ接続できるサービス。
(注2) 撮影現場と映像加工を行うプロダクションをネットワークを介して、遠く離れた別々の場所で行う映像制作手法。例えば、横浜のサッカー場に複数台のカメラを配置し、全ての映像を別々に東京のスタジオに伝送し、スイッチングを行うなど。

〈1〉超高速・大容量・低遅延ネットワークが設備配置の自由度を向上

巨大装置産業である放送局の設備配置の常識が一変します。

従来、マスター設備やスタジオ設備、回線センターなどは物理的に近い場所に集中して設置する必要がありましたが、IOWNの超高速・大容量・低遅延の光ネットワークにより、これらの設備を地理的に分散配置できるようになります。

極端な話ですが、スタジオは赤坂、オペレーションルームは福岡、機材を納めているラック室は北海道でも言いわけです。これにより、設備配置を電力コストの低い地域や、自然災害リスクの低い場所などへの選択が可能となり、さらに設備の冗長化や分散化による事業継続性の向上も実現できます。

このような柔軟な設備配置は、放送局の運営効率を改善し、より柔軟な放送インフラ構築を可能にします。

〈2〉オンデマンド接続による回線コストの最適化

IOWNが目指している「オンデマンド接続」が、常設回線に要するコストを大幅に削減する可能性があります。

例えば、2028年竣工予定の赤坂エンタテインメント・シティのような大規模施設にTBS放送センターから常設回線を施設しようとすると数億円規模の費用が必要ですが、必要な時だけ高品質な回線を確保する「IOWNオンデマンド接続」が可能となれば、初期投資の大幅な削減、運用コストの最適化、そして柔軟な回線リソースの活用が実現できます。

また、将来的に日本全国の主要なスポーツ競技場やアリーナにIOWNが整備されることで、急な中継回線確保にも柔軟に対応できるようになります。

日本シリーズ第5戦、第6戦のような放送が不確実なスポーツ中継でも、決まった段階で対応が可能になります。

〈3〉リモートプロダクションによるリソース不足問題の解消

IOWNは番組制作のワークフローも大きく変える可能性があります。

特にこれまでのネットワーク容量ではストレスがあったリモートプロダクション分野で大きな進化が期待されています。

従来は、中継現場に大型中継車や制作機材の搬入、多くの技術スタッフの派遣が必要でしたが、IOWNを活用したフルリモートプロダクションでは、最小限の機材と人員で高品質な中継制作が可能となります。

これにより中継車の稼働を大幅に削減できるだけでなく、現地スタッフの人件費最適化、さらには機材・人材の効率的な再配置による生産性向上が可能になります。放送局の機動力アップとともに、深刻化する技術者不足という構造的な課題解決を目指すことができそうです。

実証実験を繰り返すことで、限られた人材リソースを最大限に活用する新しい働き方のモデルケースを生み出すことを目標としています。

世界初、IOWNを活用した生放送フルリモートプロダクションの可能性を実証実験 

NTT R&DフォーラムのTBSとNTTの共同展示では、IP化された放送設備とIOWNの組み合わせで、どこまで実践的に生放送対応できるかを、TBSの情報番組「ひるおび」と連携して検証しました。

生放送の映像プロダクションは、映像・音声の同期や映像の切り替え、出演者とスタッフの緊密なコミュニケーションなど、テレビ制作の中でも厳しい要件が求められる制作現場の一つです。わずかな遅延や同期の乱れも許されず、機器やシステムの信頼性が厳しく問われます。

「ひるおび」という生放送番組での実証を選択することで、IOWNを活用したフルリモートプロダクションが放送業界の最高水準の要求にも対応できることを証明。生放送という最もハードルの高い映像制作ができたことで、収録番組やスポーツ中継など、他のあらゆる番組制作でもIOWNを活用したリモートプロダクションが十分に実用可能であることが示されたと言えるのではないでしょうか。