■料理人と菓子職人の夫婦

その「暮らすファームSunpo」のレストランで料理を提供していた「hokimoto」の保木本耕太さん(42)も有機農家です。有機の野菜を育て、自分の料理に使っています。


保木本さんは、これまで料理人として食材を提供してくれる国内外の生産者を訪ね、話を聞く旅を続けてきました。そのうち農業の魅力を感じ、「いつかこんな料理を作りたい」だけでなく、「いつか自分でもこんな野菜を作りたい」という思いが募り5年前、白川町へ移住。半分はシェフとして、半分は有機農家として暮らしています。



妻のあずささんはパティシエで、やはり有機農法で育てた野菜・果物・ハーブを使った菓子を作っています。

■河原にサウナを作って経営している伊藤さん

白川町を流れる清流の河原にヒノキづくりの樽型のサウナを作ったのは「和ごころ農園」の伊藤和徳さん(44)です。


伊藤さんは、北海道大学大学院を卒業後、環境問題への関心から、水をきれいにするセラミックス関連会社に勤めていましたが、脱サラ。32歳で白川町に移住しました。
有機農業は、農家の数だけ農法があるとも言われますが、伊藤さんのは「無肥料自然栽培」です。農薬を使わないだけでなく、畑に何も投入せず(緑肥は育てます)、大地の力と微生物の営みだけに頼った農法です。野菜はネット通販で販売しています。

副業では、都会の人たちに様々な農業体験ツアーを提供しています。ある夏の休日、ツアー参加者は午前中に農業体験をした後、河原のサウナに入って川へ直行。冷たい水を浴びて、リラックスできたら、有機野菜をたっぷり使ったランチです。最後は、白川町の名物・お茶タイムが待っています。これも有機のお茶です。
伊藤さんが白川町のヒノキを使ったサウナを運営するのは、町のほとんどを占める森に入って、木を間伐することで、森を健全に保つという目的もあります。健全な森が川を通じて自分の畑にも直結するからです。

■山間の自然を活かした副業が中心だが…

その林業を有機農業の副業としていたのは、「田と山」の椎名啓さん(41)。やはり脱サラ組です。


椎名さんは東京や名古屋でサラリーマン生活をした後、32歳で移住しました。主に米づくりや野菜づくりをしていますが、森に入るメリットは多く、シイタケ栽培や山菜とり、狩猟もしています。

こうして白川町の有機農家たちは、山間の自然を活かして様々な副業をしていました。化学農薬も化学肥料も使わない有機農業に至った彼らの共通点として、やはり自然環境を守りたい、家族や仲間と自然の中で健康に暮らしたい、という熱い思いがそれぞれあります。

でも副業は、必ずしも自然に関することだけではありません。ガスのメーター交換など全く別のことをしている人もいます。最近はリモートワークが充実してきましたから、IT関係の仕事を副業としている人もいます。
「半農半X」では、自分の好きなことや得意なことを活かすのが基本。何でもアリなのです。

私たちの取材中、名古屋大学や東京農業大学の学生らが白川町に視察に訪れていました。「半農半X」の有機農業を軸にした町づくりに注目したようで、若者たちには魅力的にうつったようです。受け入れた町の人たちが「こんな田舎になぜ?」と驚いていました。この後、白川町の有機農業は、どんな展開を見せるのでしょうか。

執筆者:TBSテレビ「news23」編集長 川上敬二郎