流失文化財を保護する国際的な枠組み

文化財不法輸出入等禁止条約という国際条約がある。盗難、盗掘、略奪された文化財の輸入禁止、もともと文化財があった国への返還・回復などを定めている。対象は、例として、考古学上の発掘品や遺跡の一部、また民族的・美術的価値のあるものという定義。条約は1972年に発効し、日本は2002年に批准している。

ただ、返還はなかなか進まない。たとえばロンドンの大英博物館で1、2の人気を争うロゼッタストーン。紀元前のエジプトで、文字が刻まれた石碑だ。ナポレオンのエジプト遠征で、まずフランス軍が奪ったが、のちにそのフランス軍を降伏させたイギリス軍の手に渡り、今日に至る。当然、エジプト政府は返還を求め続けるが、返ってきていない。

中国は、日本に対しても返還を要求していくだろう。中国では古美術品のオークションが、富裕層を中心に人気だ。中国のお金持ちが日本に渡り、日本で個人・民間の美術館が所有する文化財を、オークションを通じて、買い戻すケースは少なくない。ただ、中国はユネスコの場などで、日本を含む海外流失文化財の返還を求めていくかもしれない。

いずれにせよ、海外に渡った固有の歴史財産の返還を求める動きは、中国の場合、中華民族の長い歴史、民族の尊厳を重視する、習近平指導部の路線に、ピタリと一致している。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。