トランプ大統領の再登板でさらなる激化が予想される米中対立。その最前線の一つである東南アジアの国、カンボジアを訪ねた。そこで見えたのは中国の圧倒的存在感と人々の期待と不安だった。

中国の目的は何?・・・「習近平大通り」に賛否両論

30年ぶりに訪れたその街は、様変わりしていた。カンボジアの首都、プノンペン。1997年、大学生時代に旅行で訪れたプノンペンは、満足な舗装もされていない埃っぽい道をオートバイや自転車がまばらに行き交う風景が広がっていた。

内戦が終わって6年。疲れた顔をした人々。そして目につくのは女性ばかり。「男性の多くは、内戦で死んでしまった」。そんな女性の言葉が忘れられない。

1997年のプノンペン市内の様子
2024年のプノンペン市内

2024年9月に再訪したプノンペンは高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市に変貌を遂げていた。何より圧倒的な中国の存在感を感じさせる街になっていた。その象徴ともいえるのが7月に開通したばかりのその名も「習近平大通り」だ。全長約50キロ。中国の企業によって作られた。市民に感想を聞いてみると。

習近平大通り

カンボジア人男性
Q中国企業が道路を作ることをどう思いますか?
「いいことです。とてもいい道です」
Qカンボジアの道路に中国人の名前がついていることについてどう思いますか?
「中国がお金を払っていますからね」

一方こんな意見も・・・

カンボジア人男性
「助けてくれるのはいいことですが、本当の目的が何なのか、よくわかりませんね。アメリカが支援してくれればもっとアメリカとの結びつきが強くなるのですが」
Q道路に中国の国家主席の名前がついていることをどう思いますか?
「私は反対です。抗議したいですね。受け入れがたいです。道路を作ってくれて感謝していますが、カンボジアの道路なのだからカンボジア人の名前の方がいいでしょう」

中国が建設した道路はほかにもある。プノンペンと南西部の港町シアヌークビルを結ぶ約200キロの高速道路もまた、2022年に中国の支援で作られた。これまで5時間かかっていた道のりを2時間半で結ぶ。しかし、車はほとんど走っていない。料金が高すぎるのだという。料金は片道25ドル。平均月収が250ドルから300ドルといわれるカンボジア市民にとっては、確かに、高い。

高速道路の終点にある港町シアヌークビルは、プノンペン以上に「中国化」が進んでいた。街の中心部には中国語の看板があふれ、中華料理店はもちろん、病院にホテルに電気店、雑貨店、美容院にマッサージ店。ありとあらゆる種類の店が立ち並ぶ。中華料理も「湖南料理」「四川料理」「上海料理」など細分化されている。シアヌークビルにいながら中国全土の料理が食べられそうだ。

1年前、広東省深圳市からシアヌークビルに来たという美容師の男性は「ここで仕事をしている中国人が多いから中国語の看板が多いんだよ。中華料理店も多いし、暮らしやすいね」と話す。

重慶小麺の店を開いて2年だという男性は「中国は不景気だからここで店を開きました。中国人は多いし、ここは中国がカンボジアと協力して発展させた町なんです。将来有望ですよ。どんどん開発が進んでいます。中国語だけで暮らせますし、中国人だけでも数十万人はいるでしょう」。建設業の男性に至っては「ここは中国と同じです」ときっぱり。

この状況、カンボジア人はどう思っているのだろうか。「中国が投資するので、雇用が生まれ、いいことだと思います」「中国人がたくさんくれば、私たちはもっと儲けることができるでしょう」「歓迎します。私たちの国を開発してくれるのですから」。経済がよくなることを期待する声が多かった。

カンボジアに中国からの投資が急増したのは10年ほど前のこと。中国メディアによると2023年の海外からカンボジアへの新規投資の9割が 中国からだった。

ビルの建設が進むシアヌークビルの街