生き物の目線で伝えたい 私たちも地球の一部

――素潜りを始めたきっかけは?

二木あい氏:
素潜りだけで行くのは、彼らと同じ目線で海の中にいて、海の中から伝えるっていうのが使命というか自分がやらなければいけないことだと思うので、クジラだとかイルカとかの哺乳類とか、ワニだとかウミガメとか、みんな息を止めて海の中にいるので、その彼らと同じ状況で海の中にいて、同じ目線にいるっていう。

ボンベを背負うと中に長くいられて観察はできるんですけど、泡と音で生き物たちが逃げていってしまうので、彼らの中に入り込んで一体にはなれない。だから、私は背負わずに素潜りで同じ状況で潜るっていう。

――何分潜れるんですか。

二木あい氏:
1分半とか2分とかそういう感じでやっています。浦島太郎の話があるじゃないですか、一晩行って帰ってきて、玉手箱を開けたらボンとおじいちゃんになっちゃったって。あれってあながち嘘じゃないなと思うのが、海の中は流れる時間がすごくゆっくりしているというか。

1分半って陸上ではインスタントラーメンもできない時間ですけど、海の中はその生き物に出会って、こんにちは初めまして私は誰々ですみたいな心の中でそれがあって、そこから向こうもこっちを知って一緒になんだかんだして、じゃあねっていうのがその1分半の中にあるので、結構長くあるっていう感じです。

海の中の生き物の一員でありたいとの思いからタンクを背負わずに海に潜り、家族や部族を表す「族」を使った水族表現家を名乗っているという二木氏。彼女が海の中から届けたい思いとは。

二木あい氏:
動物、植物、自然、私達はみんな同じようにこの地球に住んでいて、人間だけの地球ではないっていう。私達はみんな同じで、みんなともに生きている、ともに生きるっていうことを伝えたい。

動物だけ、自然だけを見ると別物になってしまう。海の中は特に、私達は住んでいないので。でも、そこに人間が入ることで感情移入がしやすいのではないか。タンクを背負ってなくて同じように泳いでいる人間が入ることで、すっと入れるんではないかなっていう。皆さんに私を見てもらいたいわけではなくて、私を通して海を感じてもらいたい。

水族表現家として活動を続ける中で、二木氏は2011年、ギネス記録に挑戦。洞窟を長く一息で泳ぐ種目で、フィンをつけて100mという女性初の記録、フィンなしで90mという世界初の記録、二つの世界記録を樹立した。

二木あい氏:
それは世界初っていうものを私は取るためにやった。何者かにならなければこの声は伝えられないと思って。ギネス記録で世界初っていうのは、誰かが最初に取ってしまったら、もうそれで終わりというかその人のものなので、どうしてもその「初」をやらなければいけないと。

――何か持っていないとこの人間社会では発信できないぞという。

二木あい氏:
そうですね、伝える相手は人間なので仕方がない。

――始めた頃に比べて、海の変化はありますか。

二木あい氏:
現地の方とお話をすると、その時に海がすごくきれいでたくさん生き物がいるとしても、5年前、10年前はっていう話をどこに行ってもされますし、今温暖化の影響で海の流れが変わってきてしまったので、それまでいっぱい来ていた生き物はもうそこには来なくて他のところに行ってしまっているとか。悲しい方の変化のことしか聞かないのはすごく残念だなと思いますし、異常に海がぬるい、熱いっていうのを肌で感じるのはちょっと気持ち悪いなっていうのは思います。

やっぱり海で世界は繋がっているなっていうのは、誰も人間が住んでいないようなすごく遠いところであっても、プラスチックのゴミが浮遊していたり、生き物たちが亡くなった後お腹を分けてみたら、いっぱい海ゴミが入っているっていうのが問題であったりとかするので。

海でゴミを見つけたら自分も取っていくようにはするんですけど、太陽と塩で触ると崩れてしまうものとかがあって、そうすると目の前でマイクロプラスチックになっていくので、それはもうどうしようもできない。なんかもう、何なんだっていうのはあります。

――私達にまだできることはありますか。

二木あい氏:
やっぱりまずは自分自身と対話をしてもらうというか、自分自身と向き合っていただくっていうのが最初じゃないかと。自分のことだと後回しにしてしまいがちなんですけど、一番根っこの部分の問題が解決されない限り、何かをしたところで途中で終わってしまうというか、頭で考えていいと思うことはある程度までやるかもしれないんですけど、長続きはしない。

本当に心からそうだってならないと何も変わらないと思うんです。心からって言ったときにはまずは自分と対話をしないと何も始まらないというか、まず自分自身に優しくしてあげられない限り、隣の方とか他の方たちには絶対優しくできない。自分の中で平穏があって調和が取れてくると、それは本当に波紋のように周りに広がっていってっていうのが本当の解決の始まりだと思うんです。

私達が汚してしまったもの、私達が作り出してしまったもの、私達にしか解決できないところにフォーカスを当ててやるっていうことが大事じゃないかな。最初の入口として自分に優しくなりましょうよっていうのを思うんですよね。