日本は昨年、デジタル庁を新設し官民挙げてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。企業ではリスキリング(学び直し)としてデジタル技術の講習を行ったり、学校では情報の授業で動画作成などの時間を設けたりしているが、教える側の人材不足も指摘されている。「デジタル競争力」の一部が世界最下位に沈んでいる日本の課題は何なのか。アドビ株式会社の神谷知信社長に聞いた。
■日本のデジタル競争力「企業の俊敏性」は世界最下位

アメリカのソフトウェア企業「アドビ株式会社」は30年前に日本市場に参入。テキストや画像の情報を収める「PDFファイル」やイラスト作成ソフトの「イラストレーター」、写真の加工に使う「フォトショップ」や動画編集ソフトの「アドビプレミア」といったサービスをクラウド上で提供している。近年はソフトウェアの開発・販売だけでなく、IT化全般を支援する企業に変わりつつある。

アドビ株式会社 神谷知信 代表取締役社長:
もともと創業はデザイン寄りのアプリからスタートしているのですが、最近はデジタルマーケティングの領域に非常に力を入れています。なぜかと言うと、デザインしたコンテンツはいいのですが、それをきちんと届けたい人に届けないと作った意味がないのと、送る側と消費する側の信頼性が落ちてしまうのです。このような観点で、よりデータ分析してお届けするプラットフォームというものも販売しています。ちょうど日本で今年30周年、世界で40周年を迎える企業になっています。

ーー昨今とかくデジタル化が叫ばれているが、DXの定義とは何か。
DXはデジタルトランスフォーメーション、変革ですよね。アドビではDXをデジタルエクスペリエンスと考えています。デジタル上でどうやってユーザー体験を向上できるかというところが非常に重要だと思っているのです。私もそうですが、毎朝起きてスマホを見ます。寝る前も見ますし、おそらくデジタルに接点がない人はいまなかなかいないと思います。その体験がいいのか、向上できているのかというところが非常にいま問われていると思います。

ーー日本のデジタル化は遅れていると言われるが、世界のランキング調査がある。スイスのIMDが発表した「世界デジタル競争力ランキング」によると、日本は64か国中28位となっている。この順位をどう見ればいいのか。
日本人としては残念ですが、2016年からランキングが変わってないというところがあって、例えば韓国とか台湾は順位を上げているのです。そういった観点では、少し遅れているのかなと。

ーー日本は「人材/デジタル・技術スキル」が62位、「ビッグデータの分析・活用」が63位、「企業の俊敏性」が64位。64位は最下位だ。日本の競争力の問題点はどこにあるのか。
「人材/デジタル・技術スキル」の中で「国際経験」というものも最下位です。ですから、人材の流動性などは最終的に企業の俊敏性にも影響してくるので、かなり複雑な要素が混じり合っているような気がしているのですが。
ーーリスキリングつまりスキルをつけることをもう1回やるという学び直しが遅れていると言われており、そこに流動性が低いことが密接に絡んでいるということか。
流動性といってもいろいろあると思うのですが、例えば外国人のタレントを国内企業に採用する、また企業間の転職も流動性ですし、まさにリスキリングもそうだと思います。私はずっと外資系で働いており、外資系の世界で考えると、まだまだ国内は流動性が低いのかなという実感があります。
ーー企業文化とも絡んでくるが、「会社組織が硬直化している」、「変化を恐れる」といったことはDX化にどのような悪影響を及ぼしていると考えているか。
どうしても縦割りの組織の中で各組織が個別のいろいろなDXを進める、それはいいのですが、そうするとお互いの変革が水平でつながっていかないのです。よくありがちなパターンになるのですが、やはりいま世の中はものすごいスピードで変化しているので、変化にきちんと対応できるような組織づくりが遅れている感じは各経営者と話していても日々感じているところです。