■ 救われた母の言葉 「全ての人が素敵な部分を持つ」

詠子さんを救い出したのは母・恵利子さんだった。2人でドライブをしていた時、運転する母親に愚痴をこぼした。「もう服も入らない、メイクも楽しくない」


すると母親はこう言ったという。
「パーフェクトな人はどこにもいない。けれど、全ての人が素敵な部分を持つんだから、あなたは堂々として前を向いて歩きなさい」

3年間 悩み続けた日々。でも、この言葉が、すとんと詠子さんの中に落ちた。

母・恵利子さんは、最初はショックだったという。
「どうしてうちの娘がこんなならなきゃいけないのか」
泣く娘をただただ抱きしめることで精いっぱいだった。ただ、一度きりの人生を後悔が無いように楽しんで、好きなことを一生懸命やってほしいと願い、伝え続けた。


目にうっすらと涙を浮かべながら振り返る恵利子さんの隣で、詠子さんは大粒の涙を流していた。2人にとって、この暗闇がどんなに苦しかったかは言葉を聞くより明らかだった。母の愛は詠子さんにとって一番の薬だった。母娘は暗闇から抜け出した。

その後、詠子さんはインスタグラムで 『プラスサイズモデル』 の存在を知った。なかでもアメリカのモデル・アシュリーグラハムさんの投稿に目を奪われた。自分の体のストレッチマーク(肉割れ)を見せ「嫌なものじゃない」と発信している姿は、詠子さんの「希望の光になった」という。

2018年、通っていた美容室で「Japan Red Carpet Award」というミスコンテストを知った。体重は参加条件になかった。参加資格は「芯を持って活動をしている人」
挑戦しようと、ダメ元で応募すると、見事、書類審査を通過した。


迎えた長崎大会。ウォーキングの経験もない詠子さんは不安でいっぱいだった。周りはいわゆるモデル体型の女性だらけ。しかし、周囲が好奇の目で詠子さんを見ることはなかった。皆、詠子さんの意見や考えを聞き、理解してくれた上で接してくれた。


■ レッドカーペットにふさわしい女性とは?

長崎大会を突破し、その後の西日本大会でのスピーチ審査が、詠子さんの人生に大きな影響を与えることになる。このときの質疑は「レッドカーペットにふさわしい女性とはどういう女性か」というものだった。


1人ずつ答えていく。詠子さんの順番が少しずつ近づいてきていた。
しかし、答えが出せずにいた。『レッドカーペットにふさわしい女性って限定するべきではない』と思っていたからだ。
詠子さんは、考えをありのまま述べた──