低所得層を中心に「収入の増え方」低水準に 中小企業の業況悪化が背景か

消費マインド悪化の原因を特定することは難しいが、今回の調査では「収入の増え方」が23年11月以来の低水準に沈んだことが重要ではないか、と考えた。家計はインフレ高進による実質ベースの賃金の目減りだけでなく、名目ベースの賃上げについても弱気化している可能性がある。年収別で「収入の増え方」の指数を比較すると(図表5)、これまで特に指数が上昇してきた低所得層が悪化に転じてきていることが分かる。この傾向は「雇用環境」でも同様である(図表6)。低所得層は中小零細企業で働く人が相対的に多いと考えると、最近のコスト高(原材料価格の高騰と賃上げ〈特に最低賃金引き上げ〉)が、中小企業を圧迫し、その影響が家計にも波及してきた可能性があるだろう。中小零細企業の求人が多いと思われる公共職業安定所(ハローワーク)の統計では、有効求人倍率の低下傾向が続いている。

連合は25年の春闘における中小企業の賃上げ率の目標を「6%以上」にすると発表した。大企業を含む全体では「5%以上」としたが、中小企業の賃上げが大手に比べ後れていることを背景に、高めの目標を設定した。実際には中小の賃上げは低迷するだろう。

そもそも、現在の経済政策は中小企業に対して厳しいものばかりである。最低賃金の引き上げが人件費を圧迫するだけでなく、日銀の利上げも資本コストを引き上げる要因となる。東京商工リサーチが「ゾンビ企業」(利払いに対する営業利益+受取利息・配当金の比率が低い企業)について調査したところ、0.1%幅の金利上昇でも「ゾンビ化」する企業はあり、「借入金利の上昇によって市場から退出をすぐに余儀なくされるわけではないが、小幅な金利上昇でも影響が甚大なことがわかった」(東京商工リサーチ)という。政府・日銀は直接的には言及しないものの、これらの政策が「低生産性企業」の市場からの退出を促すものであり、新陳代謝が意図されていることは明らかである。この方向性が奏功するかは長期的な評価が必要だが、少なくとも短期的な痛みは避けられないことが、足元の消費マインドの悪化に示されているようにみえる。プラス面だけを捉えた楽観論からは距離を取るべきだろう。

図表5:消費動向調査 収入の増え方(年収別) 出所:内閣府より大和証券作成 
図表6:消費動向調査 雇用環境(年収別) 出所:内閣府より大和証券作成

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)