市場では米大統領選でトランプ優勢の見方
根本にあるアメリカの長期金利上昇には、アメリカ大統領選挙も大きく影響しています。トランプ対ハリスの戦いは、歴史的な接戦で最終盤にもつれ込んではいるものの、ハリス氏に一時の勢いがなく、金融市場ではトランプ氏優勢との見方が広がってきているのです。
ウオール・ストリート・ジャーナル紙が23日に発表した最新の世論調査では、全米での支持率がトランプ49%、ハリス46%と、再びトランプ氏が逆転しました。リアル・クリア・ポリティクスによる世論調査の平均を見ても、23日時点で全米ではハリス氏が僅かにリードしていますが、勝敗を決する激戦州の7州では、すべてトランプ氏が優勢に転じました。どの州を見てもハリス支持が落ち、トランプ支持が盛り返す傾向は一緒です。
そもそもトランプ氏が出馬した過去2回を見ると、事前の世論調査は、実際の投票結果より、トランプ支持が低めに出る傾向がはっきり出ています。16年のクリントン氏は、事前の世論調査で5%程度リードしながら負けてしまいましたし、20年のバイデン氏も8%ほど差をつけながら僅差の勝利でした。こうしたことから金融市場では、「トランプ勝利」を見越した、いわば先取りの動きが出てきているのです。
再びトランプ大統領ならインフレ的
「再びトランプ大統領」なら、ハリス政権誕生よりも、インフレが加速するだろうというのが、市場のコンセンサスです。大型減税に加え、歳出圧力が強く、財政赤字の拡大が見込まれます。中国など各国からの輸入品への関税引き上げは、間違いなく物価上昇を後押ししますし、移民の制限も労働需給のタイト化を通じ、賃金上昇圧力につながると市場は見ています。同時に行われる議会選挙の結果によって程度は変わるでしょうが、トランプ勝利なら長期金利上昇というのが、今のトランプトレードです。
もっともトランプ氏自身は、自分が当選したら国内での石油、天然ガスの掘削を飛躍的に増加させるので、インフレは抑制されると主張しています。
前回のトランプラリーと異なる環境
ただ、仮に「再びトランプ大統領」になったとしても、2016年のような、株高トランプラリーがそのまま再現するわけではなさそうです。
8年前のトランプラリーは、コロナ禍の遥か前であり、「ディスインフレ(低インフレ)の世界」が、現にありました。しかし、グローバル化時代が終わった現在は、インフレへの懸念、控えめに言っても、インフレへの目配りが必要な時代です。インフレ加速や金利の上昇は、景気失速に直結する可能性さえあります。
また、2016年は6月にイギリスでブレグジット(EU離脱)が決まり、金融市場でリスクオフが進む中で、トランプリスクが強く意識されていました。発射台が低いところでトランプラリーが始まったので、劇的な株高、リスクオン相場が実現した面もありました。
さらにトランプ氏自身は、景気刺激から常に「低金利」が大好きで、国内産業保護に向け「ドル安」を志向する傾向があり、現実の動きとベクトルがどう整合するのかは、よく見えないところです
株式市場でエネルギーや防衛、金融など一部の業種には、好影響が出るかもしれませんが、前回のように全般的な株高につながるかどうかは不透明です。
本当に「再びトランプ大統領」となるのか。そして、今回のトランプトレードは、前回のトランプラリーとどう様変わりするのか。市場関係者らは早くも身構えています。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)