山田太一と宮藤官九郎の深い関係性
影山 山田太一さん原作で、宮藤官九郎さんが脚本を書いた「終りに見た街」(テレビ朝日)について語りたいです。宮藤さんは山田さんを敬愛してやまないんです。2015年に山田さんが書かれたエッセー本の解説文を宮藤さんが担当していて「ウエイター役でいいから山田先生の作品に僕を出して下さい。それが僕の想い出づくりです」と書いています。
山田さんも亡くなっており、本来はかなわぬことですが、かなわぬどころか、山田さんが原作とともに過去2回脚本を書いた作品を、クドカンの世界観も入れながら、山田さんへのオマージュもありながらという形で放送した。そしてもちろん反戦ドラマとしても大いに評価すべきです。
最近、反戦物が地上波のテレビでなかなか流れなくなっています。イデオロギーという大層なものでなくても、重いものは視聴者に敬遠されるということもあるでしょう。ちょっと重かったらプイッとしちゃう視聴者との闘いの中で、この作品を民放が放送したことには心意気を感じますね。
田幸 ここのところクドカンさんは、意欲的にたくさんドラマを書いておられます。それがクドカンさんの作家性だと思うんですが、得手不得手が意外とはっきりしているのを近年感じています。
評判の良かった「不適切にもほどがある!」(TBS・2024)は、私はちょっと入り込めなかったんですが「季節のない街」(テレビ東京・2024)はすごくよかった。この「終りに見た街」もいい。今の彼のベストな答えはこれなんだと思いました。クドカンさんは、取り上げる題材によって愛着の持ち方、理解の深さにバラつきがあって、その中で反戦や震災を描くとすごく温かい、いいものを書かれると思います。
反戦ドラマで言うと、終戦の日に放送された「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」(NHK)がすばらしかった。戦争の語り部がいなくなる中、その語り部を演じた岸部一徳さんがとてもよかった。
実際に年齢も経験も重ねられた今の岸部さんだからこそ持っている説得力があって、こういうしっかりキャリアを積んで、ご高齢になった役者さんをメインに置くドラマをもっと見たいと思いました。
「この感覚はすごくわかる」と思ったのが、この作品の中で岸部さん演じる田中さんの話を聞いて「戦争なんて知ってるよ」という軽口をきく子がいることです。これはこの子が特殊なのではなく、今の若い人や、どうかすると私たち世代も含めて、この感覚があると思うんです。戦争があったのは知ってるし、恐ろしくて、してはいけないのも知ってると言う。しかし果たして本当に実感として知っているのか、響いているのかを問うドラマは、ずっとやったほうがいいと感じました。
倉田 それに関して言うと「終りに見た街」で一番怖いと思ったのが、主人公の子どもたちが戦中にタイムスリップした後の心の変化です。現代っ子で「戦争、ふーん」みたいなクールな感じかと思っていたら、結局、戦中の空気や周りの言動に触れていくうちに、完全に軍国少年・少女になっていくんです。
だから、今戦争のない日本で、戦争は怖い、だめだ、知ってる、とどれだけ言っても、本当にそのさなかに置かれたとき、どんな気持ちになるのか、ちゃんと考えなければいけない。知識として知っているだけでなく、ちゃんと考えろと強く言われた気がしました。
影山 あと「田中さん」に出ていた中須翔真さんがすごくいい俳優で、今後に期待したいですね。