「笑うマトリョーシカ」に現実が重なる

田幸 「笑うマトリョーシカ」(TBS)がおもしろかったんですが、意外と話題にならなくて「あれ?」と思っていました。

櫻井翔さんの育ちの良さそうなところと、空虚さと、何だかわからない存在感。まさにキャスティングの妙で、櫻井さんがこの役を受けたこともすばらしいと思います。

櫻井さん演じる主人公には、政治家としての器の大きさなどまったくなくて、中が空っぽだからこそ、何でも入れられるし、何色にも染められる。そういう政治家がどんどんのし上がっていく薄気味悪さと、その背景がよくできていました。

影山 櫻井さんに関しては、こんなハマり役というか、こういう活路を見出したかという形でしたね。

倉田 櫻井さんを操る、ヒトラーにおけるハヌッセンみたいな存在が誰なのか気になりましたし、中身のない政治家が、その時々でウケることだけを言ってのし上がる。まさにヒトラー誕生の過程をなぞるような描写を見ていると、あれっ、今の日本に重なるところもあるんじゃないかという恐怖が芽生えました。政治に対する関心が下がっている中で、政治家のあり方を問いかけて見事でした。

「降り積もれ孤独な死よ」のメッセージ

倉田 私は「降り積もれ孤独な死よ」(読売テレビ)を興味深く見ました。

影山 話題作でしたね。

倉田 小日向文世さん演じる灰川十三という不気味な男が、虐待された子どもを集めて面倒を見る。外形的に見ると、子どもを勝手に連れ去って、自分の家に住まわせている完全に誘拐ですよね。でも、その背景には、子どもを守ろうという気持ちがある。

その気持ちがなぜ生まれたかというと、彼自身、顔に大きな痣があり、幼い頃から親に家から出してもらえず、隠された存在でした。その中である男性に出会い、優しくされて救われた。虐待された子どもが、その連鎖を断ち切ろうと、年下の虐待されている子どもの力になろうとするところに感心しました。

現実の世界でこんなことが起きたら、誘拐だということで、行政や警察が介入して、子どもは施設に入るか、親元に返されるという流れになるんでしょうが、そこはドラマの世界だから、疑似お父さんと子どもたちの温かい家庭が一瞬でも経験できたんだねという、温かい気持ちになりました。

最終回で、犯人が吉川愛さん演じる女性を殺そうとするんですけれど、成田凌さん演じる主人公がとめに入って「暴力の連鎖をとめよう」と言う。当たり前といえば当たり前ですが、そういう当たり前のことをストレートに言えるのもドラマのよさかと思います。

新聞や報道によって伝えることも大事ですが、報道に触れない人、ニュースを見ない人もいるわけで、そういうメッセージをストレートにドラマを通して伝えるのもありだと思います。