プリンセス駅伝初制覇は「6人全員の力の合体」

しかし、加藤の頑張りだけが勝因ではない。6区に50秒差でタスキをつないだ5区までの展開がなければ、6区の劇的な逃げ切りはなかった。長沼監督は全員の総合力の結果だと強調する。

「予想より頑張ったのは5区の平井(見季、28)ですが、そこまでの4人がしっかり流れを作っていた。それが平井の頑張りと、加藤の最後にキック(スパート力)を残す走りを引き出しました。選手6人全員の力が上手く合体できたことが一番良かったですね」

1区の川口桃佳(26)は2年前に、同じ1区で区間賞を取った選手。今回のトップと32秒差の区間11位は、ユニクロにとって誤算だった。しかし2区の後藤が区間賞と快走し、トップのエディオンと11秒差の4位に浮上した。

3区の吉川は区間3位で「監督がマラソンにつながると言っていた区間順位」をきっちりと確保。「先頭の中継車に(大好きな)TBSの南波(雅俊)アナが乗っていらしたので、その車から離されないように」という気持ちで3位に進出した。

そして4区のニャボケが2.5km付近でトップに躍り出た。ニャボケは「とにかく自分自身を追い込んで、できるだけ前にという気持ちで走っていました」と逆転したシーンを振り返った。日本で活動はしていたが、昨年までは駅伝に出場していないチームに所属していた。

「ユニクロの一員としてここにいられることが、とても幸せです」

5区の平井は、長沼監督に“予想以上”と言われたことに納得していた。「調子が上がらずに不安でしたから」と。平井はスピードを出す能力は高いが、故障の影響もあり地道な練習を継続することが苦手だった。今年の夏は「意識改革」(長沼監督)をして苦手な練習にも取り組んだ。

平井は区間5位だったが、2位のエディオンを引き離した。「練習はしっかりやっていたのでそこを自信にして走りました。(2番目に長い)5区を任せられたからには、今の力を出し切ろうと思って走りました」

クイーンズ駅伝では、翌年の出場権が得られる8位以内(クイーンズエイト)を目標にする。ただ三井住友海上、エディオンも含めたプリンセス駅伝上位3チームに、クイーンズエイト入りの可能性がある、という声も出ていた。昨年の8位以内のチームも、下剋上を簡単にはさせないだろう。クイーンズエイトは簡単には達成できない。

長沼監督はプリンセス駅伝には間に合わなかったが、故障明けの柳谷日菜(24)の戦列復帰を期待している。10000mで31分台(31分56秒32)の記録を持ち、前所属チームではクイーンズ駅伝の5区と3区を担っていた実績の持ち主である。

だが長沼監督が話したように、現時点の実績では劣るが生え抜き選手たちも好調だ。彼女たちが奮起することで、クイーンズ駅伝のユニクロの5、6区は、プリンセス駅伝以上のレベルになる。

プリンセス駅伝で「ゴールテープを人生で初めて切った」と感慨にひたった加藤が、「クイーンズ駅伝に向けてメンバー争いして、自分の調子を上げて、エイトを絶対につかみ取りたいと思います」と、さらなる活躍を誓っていた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)