6人中唯一の生え抜き選手がテープを切った意味

加藤にとってプリンセス駅伝の6区は、ルーキーイヤーの21年、22年に続いて3回目。樺沢に残り1km付近で4~5秒差まで追い上げられた。しかし加藤はそこからペースアップし、前述のように7秒に差を広げて逃げ切った。

スタート前に長沼監督から、「樺沢との力の違いを考えたら絶対に追いつかれる。追いつかれても最後にスパートする力は残しておけよ」とアドバイスされていたことを実行に移すことができていた。「どうなってもいい」という開き直りが、冷静な走りにつながったのかもしれない。

「プリンセスはアンカーの経験が2回ありました。(フィニッシュ地点に向かって)曲がった時に差があるとわかりましたし、上りは絶対に得意なんです。(フィニッシュ地点で待つ)みんなが見えた時にはもう、これは1番で、っていう思いでした」

加藤は今回出走したメンバー6人中、唯一のユニクロ生え抜き選手。残りの5人は他チームで実績を残し、移籍してきた選手たちである。移籍選手が多いチームで、加入後に2区の後藤夢(24)はパリ五輪の代表入りした。3区の吉川侑美(33)は各種目で自己新を出しながら距離を伸ばし、現在はマラソンで世界陸上を目指している。移籍選手をしっかり伸ばしている点が、ユニクロの強さであることは間違いない。

だが長沼監督は「今回の加藤のように、生え抜き選手が頑張るところがベースになります」と明言する。「補欠に回った朝日春瑠(25)や阿部円海(21)も生え抜きで、結構良かったんですよ。阿部を起用してもよかったのですが、今回は加藤の経験値に期待しました」

監督が選手の心理状態を見抜いてアドバイスをし、その気持ちに応えた選手が自身を追い込んで練習を行い、監督の選手起用がピタリとはまった。駅伝に勝つときは“何らかのプラス”がチーム内で働いている。