後半で浮上しそうな大塚製薬とルートインホテルズ

小林が3区で快走してトップに近い位置につければ、大塚製薬が上位戦線を攪乱する可能性がある。「4区と6区はつなぎに徹しますが、1、3、5区はある程度計算できる」と河野監督。5区の棚池穂乃香(27)は昨年も5区で区間2位。3人抜きで4位に上がり、チームの3位に貢献した。5000mからマラソンまで幅広く走る選手で、9月の全日本実業団陸上5000mでは15分36秒87の自己新。5区の区間賞候補筆頭だろう。前回1区区間10位の戎井那奈(19)と、3区区間6位の西谷沙綾(23)がメンバー入りできなかった。河野監督は「無難に8位」と控えめな目標を話したが、昨年のように気づいたら水色のユニフォームが3位以内を走っている、ということは十分あり得る。

もう1つの後半要注意チームがルートインホテルズである。前回2位のメンバーと2区・坂本ちほ(28)、3区・堀尾和帆(25)、4区・カムル・パウリン・カベケ(29)、5区・藤田正由加(25)は変わらない。選手が移籍した1区に6区を走った三原梓(21)が移り、6区に保科琴音(24)が入った。3区の堀尾が2月にハーフマラソン、7月に5000mと10000mと3種目で自己新をマーク。区間17位で4つ順位を落とした前回のようなことはない。カムルは相変わらずの強さで、5区の藤田も7月に5000mと10000mで自己新。6区の保科も7月に15分48秒77と自己記録を更新した。

トラックなど個人種目の記録が、しっかりと駅伝に結びついている印象があるチーム。昨年は4区のカムルで2位に浮上し、5区で一度3位に後退したが6区で2位に再浮上した。今年は5区か6区で、ルートインホテルズが数人を抜くシーンが見られるかもしれない。

三井住友海上としまむらのアンカーは代表経験選手

しまむらも3区の安藤友香で上位争いに加われば、外国人を起用しないインターナショナル区間の4区で後退しても、5区の鈴木杏奈(22)で再浮上が期待できる。「長い距離の練習ができる。(2区の山田桃愛と)新人2人が良いのでチーム状況が良くなった」と太田崇監督。そして6区には18年アジア大会5000m代表だった山ノ内みなみ(31)が控える。5000mで15分20秒台を出した18、19年当時の走りは難しいかもしれないが、9月末に15分48秒76のシーズンベストで走り上り調子で駅伝に臨む。

「5位という目標を立てていますが、4位でも3位でも」と、太田監督は後半区間にも手応えを感じている。現役時代、コニカミノルタで何度もニューイヤー駅伝に優勝した太田監督のスタイルが、監督就任3年目で根付き始めたようだ。

しかし他チームにとって、“壁”となりそうなのが三井住友海上の後半区間だ。5区の清水萌(22)も、仙台育英高で全国高校駅伝(3区区間賞)で優勝するなど活躍した選手。今年はハーフマラソンでも1時間10分台と、長い距離で成長を見せている。4区のタビタジェリでトップに立てば、5区で仮に逆転されても大きな差にならない。

そしてアンカーの樺沢は、「前に2人くらいいてもいい」と鈴木監督に話したという。もちろん大差が付いていたら逆転できないが、昨秋から1年間、高いレベルで走り続けてきたことが自信となっている。万全の状態ではなくても精神的に余裕を持つことができるのが、国際大会を経験した選手の強さだろう。樺沢は昨年のプリンセス駅伝は1区で区間賞。パリ五輪10000m代表の小海遥(21、第一生命グループ)も、2年前のプリンセス駅伝3区で区間賞を取った。そういった選手たちが日本代表に成長し、その経験も力に駅伝で戦う。駅伝と国際大会の良い循環が、今年のプリンセス駅伝でも見られそうだ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)