バリアフリーは遅れているが……
パリ2024大会をめぐる日本での報道で、地下鉄のバリアフリーが遅れていると伝えるニュースに触れた人も多いかもしれない。実際に、地下鉄でバリアフリーの駅になっているのは全体の9%しかなく、バリアフリー率は東京やロンドンよりも低い。
完全にバリアフリーになっていたのは、オルリー空港と主要な会場がつながるなど、路線の延伸や駅の新設が行われた地下鉄14号線だけだった。


地下鉄の整備が進まない代わりに、バリアフリーをほぼ100%達成していた交通手段もある。それは、路面電車とバスだ。


パリ市内にはバス路線が張り巡らされていて、地下鉄でアクセスできる会場や観光地にはバスも通っている。バスは車いす専用のスペースが複数備わっている車両や、乗車する際にスロープが自動で出てくる車両など、むしろ東京にはないバリアフリーのバスが多く走っていた。

さらに、車いすで観戦に訪れた人のために、一度に5台ほどの車いすが乗ることができるミニバスも、予約制で運行されていた。同様のバスが選手の送迎にも使われた。


歴史的建造物が多いパリでは、既存の駅にさらに工事をしてバリアフリー化することが難しい。観光地周辺は車いすでは通りにくい石畳の道も多く、ハード面でのバリアフリーは、現状では進んでいるとは言えない。
それでも、オリンピックとパラリンピックを開催したことで、バリアフリーの必要性は認識された。今できることをやろうと、バリアフリー化されたバスや、車いす用のミニバスを活用したのだろう。さらに、大会のレガシーとして、今後多額の費用をかけて地下鉄のバリアフリーを進めることも議論されている。パリのバリアフリー事情は、これから変わってくるかもしれない。
東京2020大会の開催にあたっては、東京都心や会場近くの駅でエレベーターの増設が行われた。ただ、その後も継続して進められているバリアフリーの取り組みがどれだけあるだろうか。
日本国内では2025年に世界陸上と、耳が聞こえない人や聞こえにくい人による国際スポーツ大会のデフリンピックが東京都内で開催されるほか、2026年には愛知県名古屋市でパラリンピックと同規模の参加者数になるアジアパラ大会が、アジア大会とともに開催予定だ。

パリ2024大会が運営面で見せた、気候変動対策などで「持続可能性」を目指す取り組みは、今後の国際スポーツ大会の新たなモデルになる可能性がある。日本でもこの大会の検証を行うことで、国際スポーツ大会や障がいのある人が参加する大会をどのように運営し、どうやってレガシーを残していくのかについて、改めて考える機会になるのではないだろうか。(「調査情報デジタル」編集部)
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。