為替市場ではむしろ円安に
こうしたことから、為替市場は複雑な反応を見せました。
FRBの決定会合直後には、0.5%という大幅利下げを受けて一時、1ドル140円台半ばまで円高に振れたものの、パウエル議長の記者会見が始まると円安に転じ、日本時間19日午前には、1ドル143円90銭まで円安が進む場面もありました。
アメリカの金融緩和が、即"円高ドル安"という一本調子の針路ではないことを示した形です。
アメリカの景気が、期待通り『ソフトランディング(軟着陸)』するのであれば、ドルは意外に底堅いと見る向きもあります。
このことは日銀の利上げ戦略にとって、とても重要です。
日銀はさらなる利上げをめざす
日銀は20日、政策金利をこれまで同様0.25%で据え置くという現状維持の政策を決定しました。
植田総裁は記者会見で、「(物価や経済が)見通し通りに推移すれば、引き続き、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と明言しました。
アメリカが利下げをする一方で日本は利上げをしていくという、日米の金融政策が全く逆になる構図が鮮明になりました。こんなことは、歴史を振り返ってもまずないことです。
日米で逆方向の金融政策は可能か
そもそも、アメリカの景気が悪い時には、日本経済も大きな影響を受けるのですから、アメリカの利下げ局面では、日本も利下げというのが普通のパターンです。
しかも、アメリカが利下げに転じれば、通常、為替市場で円高が進むので、日本はとても利上げなどできないというのが、お決まりのパターンでした。
1985年のプラザ合意以降、円安阻止こそが最も優先順位の高い政策だったからです。
しかし、今回の局面は条件が異なっています。そもそも為替の水準が140円程度と、かなりの円安で、許容できる円高への「のりしろ」があります。
その一方で、160円といった極端な円安は修正されていて、為替については比較的「居心地のいい」状態です。
何より、アメリカ経済が「景気後退」ではなく、「ソフトランディング」であるならば、前述のように、日本経済や為替への影響も限定的になるからです。
果たして、日米で真逆の金融政策が実現可能なのか。
7月の日銀の利上げ後には、円キャリー取引の逆回転などによって、「令和のブラックマンデー」と呼ばれるほど、金融市場に大きな波乱が起きました。
思わぬリスクもあり得る中で、日銀にとっては、何ともチャレンジングな、「正常化」への道のりになります。
(播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)