「いずれ、やればいいと思っていた」軽んじられた安全対策
川崎幼稚園から南へ歩いて3分ほどの駐車場。隣には、牧之原市役所の職員用の駐車場があり、日中、人通りのある場所で、千奈ちゃんは、通園バスの中に約5時間置き去りにされた。そして、重度の熱中症で死亡した。発見時、千奈ちゃんの体温は40℃を超え、車内からは、脱ぎ捨てられた衣類と、空になった水筒が見つかった。
幼稚園から連絡を受けた両親が、病院に駆けつけると、千奈ちゃんはベッドに横たわって心臓マッサージを受けていたという。

千奈ちゃんの父親
「額に前髪が汗でくっついていて、朝、妻が結んでくれた三つ編みも汗でびっしょり濡れているような状態でした。あんな幼稚園に通わせてしまったとか、助けてあげられなかったとか、申し訳ないって気持ちが大きいです」
2023年11月、業務上過失致死の罪で在宅起訴された元理事長と元クラス担任。起訴状によると、元理事長は、園児をバスから降ろす際に座席の確認を怠って、千奈ちゃんを車内に置き去りにしたなどの過失が、元クラス担任は千奈ちゃんが登園していないと気付いたにもかかわらず、「欠席」と信じ込み、確認しなかった過失があったとして、千奈ちゃんを死亡させた罪に問われた。
2024年4月23日。初公判。
両被告は、いずれも黒いスーツとマスク姿。別々のタクシーで静岡地方裁判所に入った。
初公判では、元理事長への被告人質問が行われた。千奈ちゃんの父親が被害者参加制度を使って法廷に立ち、元理事長に問いかけた。
千奈ちゃんの父親
「千奈がバスの中で、自分ではどうすることもできなく、1人で亡くなっていった気持ちがわかりますか」
元理事長
「はい。苦しい思いをしていたんだなと思います」
千奈ちゃんの父親
「(幼稚園を)廃園にすると、あなたは約束しましたね」
元理事長
「誠に申し訳ございませんが、私の言葉からは言えません」
千奈ちゃんの父親
「廃園にすることが、千奈と私への償いだと思いませんか」
元理事長
「申し訳ございませんが、廃園にすること(について)は言えません」
事件当時、川崎幼稚園を「廃園にする」と約束していた元理事長。しかし、園は現在も存続している(2024年9月現在)
千奈ちゃんの父親は2021年7月、福岡県中間市の保育園で、当時5歳の男の子が送迎バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した事件についても触れた。
千奈ちゃんの父親
「福岡県でも事件があったのに、安全対策を行わなかった理由を教えてください」元理事長
「…。いずれ、やればいいと思っていました」
千奈ちゃんの父親
「でも、やらなかった」
元理事長
「はい」
千奈ちゃんの父親
「乗務員がバスのスライドドアを閉めた。本心では、乗務員が悪いと思って、自分は悪くないと思っていませんか」
元理事長
「思っていません」