「作り手が納得できる音」
スタジオ完成イメージ
後藤さんがスタジオを作るために蔵を選んだ最大の理由は、蔵特有の天井の高さにある。「(プロが好む生音の)生ドラムの収録だけは、天井の低いスタジオではできない」。ドラムの音は空気の振動から生まれる。壁や天井から音が跳ね返ってくるような狭い空間では「いい音が録れない」という。
いい音とは何か。記者の問いに後藤さんは「作り手が納得できる音」と答えた。
後藤さんはメジャーデビューを果たすまで、昼間はサラリーマンとして働き、夜はスタジオでメンバーと楽曲を作りながら練習を重ねた。都内の場合、プロ向けのスタジオ利用料は1日20万円以上。もっぱら低価格の狭い街スタジオを利用した。2003年にメジャーレーベルと契約するとようやく、プロ仕様の本格的なスタジオで活動できるようになった。そこで初めて、スタジオの空間によって音響に大きな差があると知った。
未来のアーティストへの思いを語る後藤さん
資金力がなくても、「音響の優れたスタジオで表現力を磨きたい」という志を持つ全てのミュージシャンの願いを叶えたいー。後藤さんが蔵をスタジオに一新し、低価格で貸し出そうとする背景には、そんな思いがある。メジャーで活躍する一部のミュージシャンだけでなく、全てのミュージシャンの切磋琢磨が音楽業界全体を底上げすると信じているからだ。
「一つ一つの音楽活動に価値があるし、それぞれが尊いもの。作り手が納得できる環境を用意するのがこのスタジオの役割です」