新たなスタート技術とイタリアの大会でのシミュレーション
サニブラウンの今季は、良いレースとそこまで良くないレースが繰り返されている。
室内シーズンは好調で2月11日に60mで6秒54と、19年に出した自己記録と同じタイムで走った。3月23日に10秒02、4月13日に10秒04と、パリ五輪参加標準記録の10秒00に迫るが破れないレースが続いた。昨年の世界陸上で入賞しているサニブラウンは、今年に入っての標準記録突破でパリ五輪代表に内定する。
5月19日のゴールデングランプリ(GGP)は予選を10秒07で走ったが、9秒台が期待された決勝は脚が痙攣して10秒97に終わった。
標準記録を突破できなくても、世界ランキングで出場資格を得ることは確実だった。だが「9秒台を出せなかったらパリ五輪に出る意味はない」と自身に9秒台を課して渡欧、5月30日のDLオスロ大会で9秒99をマーク。パリ五輪代表を内定させた。
今季のサニブラウンはスタートを変えている。冬期練習期間に2歩目の動きを変更したのである。その変更内容をサニブラウンは、GGPのときに以下のように説明していた。
「まだできていない部分がありますが、感覚的にスタートが例年より良くなっています。2歩目が短くなる傾向があった部分を直すことができました。今までは1歩目をしっかり出て、2歩目を着くとき脚が返ってこなかった(前に出なかった)。それをカバーするために、3歩目以降が少しオーバーストライドになっていました。そこで(動きや力を)ロスしていましたね。いつもより早い段階で乗れるようになったので、自分自身ビックリしています。その1歩でまったく違う前半の30mになっています」
DLオスロではスタートの改良が結果として現れ、序盤から出遅れなかった。
「9秒台は悪くありません。ここからさらに一段階、二段階上げていきたい」
7月14日のリエティ(イタリア)のレースでは10秒20で4位。一見、よくない結果に思えるが、4位までの全員が、サニブラウンと同じタンブルウィードTCの選手だった。勝負は重視しないで、練習の一環で出場したと見て間違いないだろう。東京五輪金メダリストのL.M.ジェイコブス(29、イタリア)もチームメイトだが、大差があったわけではない。サニブラウンはリエティには、トレーニングで追い込んでいる状態で出場した。これもGGPの際に、痙攣を起こしてしまったことについて次のように話していた。
「ここまでは(スタートを中心に)短い距離の練習しかしてきませんでした。これからは120mや150mのちょっと長い距離、スピード持久のメニューが(コーチから)来るのかな、と心しています」
リエティは2日間で3本を走った。初日に1本、2日目に2本と、五輪本番の競技日程をシミュレーションした。パリでメダルを目指した戦いをする準備が、サニブラウンはできている。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は世界陸上ブダペストの決勝