無人の飛行機や船、防風ネットも活用!?台風制御の構想

 タイフーン・ショット計画では、台風の制御や発電をするための10ほどの手法が考えられています。候補のひとつは、無人の飛行機で台風に近づいて氷やドライアイスなど様々な物質を撒くという手法です。あえて台風の中心から離れた場所に雲をつくりあげて、中心へ向かおうとする風の流れを変えて、台風全体の雲の構造を変えて弱めようという考えです。

 そのほか、自然界への負荷の小さい界面活性剤を海の上に散布する手法も、工学を専門とする先生からの提案で考えられています。筆保教授によると、この手法では海面からの水蒸気の蒸発量が30~50%ほど抑えられ、台風の勢力が約10%弱まるようなシミュレーション結果が導き出されています。

 無人の船舶が台風へと向かい、“台風発電”をする構想もあります。台風の暴風を利用して発電を行い、かつ暴風を和らげることで台風の弱化にもつながるというわけです。筆保教授らの狙いは、脅威である台風の存在を、“恵み”の存在に変えることです。

 「1個の台風が持つエネルギーは、日本の消費電力に換算すると10日から100日分、令和元年東日本台風で計算すると約100日分になります。台風は水資源でもあるため、完全になくすことはできません。しかし、数日分のエネルギーを電気として蓄えて、人間の生活に利活用できるような未来が来ればいいなと思っています。」

筆保弘徳教授と研究室のみなさん

 砂浜で見る防風ネットも、台風を弱めることに役立つかもしれません。名付けて、“ベイブロック”作戦です。「たとえば三浦半島と房総半島の間、東西約16kmの浦賀水道に防風ネットを張ったとします。防風ネットでは、台風の強度はさほど変わらないかもしれません。しかし、湾へ吹き込む風がわずかに弱まることで、高潮が途端に10~20%軽減されます。海水が堤防を越えず、いまのインフラのままで高潮被害がゼロになれば」筆保教授らはこのようなストーリーを描いています。

 タイフーン・ショット計画に参加している研究者は、気象学者だけではありません。筆保教授はいいます。「ベイブロック作戦でいうと、どのような防風ネットにしたら良いか工学の専門家が実験を進めています。防風ネットを張ることで効果が得られても、船舶の航行をストップする損失が生まれます。コストや被害額の比較を試算するために、損保会社で働く経済の専門家もプロジェクトに参加しています。また、本当に社会実装したときに、社会がどれだけ受容してくれるか、法律や心理学の専門家が調べています。」

 理系と文系の垣根を越えて、様々な分野のプロフェッショナルが、アイデアを出して議論を重ねている段階のタイフーン・ショット計画。プロジェクト10年目には室外での検証実験を行い、2050年にはプロジェクトの実現を目指します。

2018年台風21号 大阪府内で起きた電柱被害の様子