「テレビが1秒も取り上げなかった」安野貴博氏

石丸氏は選挙戦後半では「有力4候補」として、小池氏と蓮舫氏、そして田母神氏と共にメディアに取り上げられたからまだいい。ある意味、石丸氏以上にメディアが注目すべきだった候補者が安野貴博氏だ。

投票日の後になってから、「安野氏はすごい」と言い出したメディアは多い。TBSもその一つだ。7月9日夜の「news23」で彼の独特の活動と主張が紹介され、本人も出演していた。ここで長々語るより、出演した様子がTBS NEWS DIGで記事になっているので読んでもらうといいだろう。

「テレビが1秒も取り上げなかった」都知事選5位の安野貴博さんと考える“選挙報道” 不適切ポスター・政見放送…候補者として感じた課題は?【news23】

(安野貴博氏が出演した「news23」の記事)

この記事のタイトルにあるように、安野氏は「選挙期間中にテレビが1秒も取り上げなかった」ことへの忸怩たる思いを語った。それを受けて小川彩佳キャスターがこう述べている。

“課題が浮き彫りとなった今、次の選挙までに選挙報道をアップデートしていこうという意思が有権者に伝わらないと、テレビの選挙報道が信頼を失ってしまうのではないかと危惧を持ちます。”

奇しくも小川キャスターが「アップデート」と言っているのが面白い。石丸氏の「政治とメディアのアップデート」とシンクロする。そして小川キャスターの言う通り、アップデートする意思が伝わらないと信頼を失ってしまう。本気で意思を示さないと、次の大きな選挙ではテレビが示す対立軸を無視して、老若男女がYouTubeで候補者の主張を見るようになってしまう。

そもそも、選挙期間に入るとテレビ局は選挙報道をしなくなる。参考にしようにも、ニュース番組でもワイドショーでも候補者の主張を報じてくれないではないか。

出口調査はするのに、選挙の入口=候補者の主張は伝えないテレビ

ほんの数年前まで、テレビは選挙の最初から最後までたっぷり伝えてきた。「最後」では出口調査で投票動向を掴み、事前の情報と合わせて投票結果を予測した。各メディアが独自の判断で「当確」を伝えた。中でもNHKの「当確」は候補者たちから信頼され、NHKが当確を打つとバンザイした。

投票日前も、選挙戦が盛り上がる頃には候補者討論会を盛んに開催し放送した。候補者たちが主張を戦わせる姿は投票の大きな判断材料になった。街頭演説も何度も報道され、その内容も放送した。テレビこそが選挙を盛り上げ、候補者の主張を伝え、国民が投票の判断材料にする重要なメディアだった。

ところが、こうした選挙報道は縮み込んでしまった。前に比べるとずっと伝える時間も少なくなり、内容も主張の中身をあえて避けるかのようだ。選挙活動の様子を街のイベントと変わらないような扱いで放送し、候補者の活動する姿は伝えてもその言論は伝えない。もちろん討論会なんてやらない。選挙の大事な部分からは目を背けている。

結果だけは伝える。出口調査の結果も報じるし当確も出す。選挙の最初から最後まで伝えていたのが最後だけになった。出口調査は続けているのに、選挙の入口に当たる候補者については伝えなくなってしまった。

こんなことやっていると、信頼を失う。「選挙のことならYouTube」になってしまう。アップデートするならまずここだ。伝えなくなったことを、伝えることにする。候補者の主張も含めてちゃんと報道すること。それが国民から求められている。そうしないと、本当の本当に見放されるだろう。