そして住民票「夫(未届)」が波紋を呼ぶことに

住まいを整え、将来のマネープランも考えていく中で、2024年5月雇用保険上の移転費をパートナーの藤山さんも受給できないかハローワークに相談に行った。回答は「生計を同一にしている親族であれば受給できる」。

「生計を同一にしている親族」には異性の事実婚カップルも含まれる。
事実婚カップルの住民票には、世帯主との関係を示す続柄欄に「夫(未届)」または「妻(未届)」と表記される。一方、同性カップルは一般的に「世帯主」との続柄欄に「同居人」や「縁故者」と記される。

住民票の続柄を事実婚カップルと同じにしてもらうことはできないか?それまで2人は同じ住所に別々の世帯で住民票を申請し、それぞれ「世帯主」と登録していた。

大村市の窓口に世帯をひとつにする手続きを申請し、松浦さんを「世帯主」藤山さんを「夫(未届)」と表記するよう希望した。

大村市はその場で職員が協議し2人が「パートナーシップ宣誓制度」を利用している事、「記載の仕方は自治体の判断に委ねられる」ことを踏まえ、2人の希望に沿った住民票を発行した。結果、全国的にも例がない同性カップルに対する「夫(未届)」の住民票が交付されることになった。

「『夫』と書いてもらった書類は今まで一つもなかった。認めてくれるところがあるんだ。本当に嬉しい!」

驚きと安心で肩の力が抜けた。住民票を受け取ると涙が流れた。それまでどんなに緊張していたかを初めて自覚した瞬間でもあった。

気持ち悪い…寄せられる批判の声

この動きはメディアに大きく取り上げられた。
「LGBTQを認めないことも多様性」
「自分は受け入れられない」
「きもちわるい」「むりー!」

大村市のもとには、2人が会見を行った5月28日~8月18日までの間に、全国から59件の声が寄せられた。いつもは1日1件あるかないかだというから異例の多さだ。

「いいことをした」「全国に広がって欲しい」ー賛成や応援する声
「同性婚はやっぱりおかしい」ー反対の声。

SNSなどでも様々なコメントが飛び交った。
「気持ち悪い」・「受け入れられない」・「理解を強要するな」
「幸せなら良い」・「多様性を認めるべき」・「尊重したい」

松浦さんは自身の心を守るために、これまでSNSやネットのコメント欄にはあまり目を向けないようにしてきた。しかし今回は意を決して目を通した。辛らつな言葉に、心が押しつぶされる。一方で想像していたよりも賛成や応援の声が多かったことに驚いた。社会の関心の高さも感じた。

松浦 慶太さん:
「大きな事象が自分たちのところで起こったんだと改めて思った。自分たちのことだけでなく、日本全体に関わること」