父親の死 長崎県への移住

藤山さんが家族にカミングアウトしたその3か月後の2023年11月、藤山さんの父親は亡くなった。

永遠の別れを前に、意を決して打ち明けた息子を受け入れてくれた父と家族。自分たちの生き方を認めてくれた家族がいる長崎県で生きていきたい。

2024年3月末、2人は藤山さんの地元である長崎県への移住を決めた。松浦さんにとっては九州自体が縁もゆかりもない土地。長崎県のどこに住むか?県内の自治体で、同性カップルの関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入しているのは長崎市と大村市のみだった。

はじめは制度を導入していない市への移住を検討していた。その自治体で、「移住」と「パートナーシップ宣誓制度」の導入を相談したところ、「田舎ですからねえ」「住民の理解を得られていないから」ー相手にされず、冷たくあしらわれた。2人は制度のある大村市への移住を決めた。

不審がられた生活 刺すような視線

それまで住んでいた兵庫県尼崎市では、周囲に同性カップルであることを伝えることができなかった。不審がられていることを感じ、刺すような視線を避けるように暮らしていた。

2人は大村市に引っ越してすぐ、アパートの住民全員に挨拶に行った。意を決して、LGBTQの当事者だということもその時に伝えた。

2人の心配とは裏腹に、挨拶した住民は全員が「普通」の反応だった。そして朝、夕、すれ違う時にも「普通」に挨拶し話をしてくれた。何気ない世間話や挨拶が、2人を認め励まし毎日が輝いていく様だった。

「予想外でした、こんな素敵な暮らしができるなんて」

隣町に住む藤山さんの家族とも、毎週のようにキャンプやイベントに出かけたり、甥の自転車の練習につきあったり。子どもが5人いる藤山さんの弟は「助かる」と喜んでくれるし、2人も次世代への貢献に携われて心から嬉しいという。

「大村に引っ越してから、良いことがいっぱい起きて。これまでどうしても苦労する経験も多かったんですけど、そんな苦労が報われたな、というか」

松浦さんは大村市の職員の勧めもあり、「大村市地域おこし協力隊」に就任し仕事も得た。ここで誰かの、何かの力になりながら生きていくんだ。