「社会にとってもプラスにならない」
(増田)
言ったんだと思う。1、2年くらい前に。
Yくん夫婦は共働きなんだけど、Yくんの奥さんはうちの妻よりも寛大。そして、Yくんは記者の仕事に情熱がある一方で、休みはきっちり満喫できるタイプ。Yくんが育休を取ったら育児よりも休暇を満喫しちゃって、「それは社会にとってもプラスにならない」とか考えて「取らない方がいい」と言ったんだと思う。いくら自分のことを慕ってくれている仲間でも、いま振り返るとひどいよね。
実のところ、育休を取った男性は、どんな1日を過ごしてるんだろうか。そういった話を聞く機会は案外ない。「どれくらい育児や家事をしていたか?」を知る術はないよね。
(伊豆田)
そうか、他の男性の育休取得者の様子が分からないんだね。
女性は育休中、同僚や他の会社のママ友たちと頻繁に連絡を取ってる。育児や家事をするための休業で、日々やることは決まってるから「どんな1日を過ごして、どれくらい家事や育児をした」なんて言わずもがな。共有するとしたら、「離乳食はいつ始める?」「卒乳はどのタイミングで?」といった、もっと長期的で具体的な相談。
男性は育休について「本来取るべきではないけど、取らせてもらっている」という意識が強いのかな。だから、「逃げ」という言葉が出てくるのでは?
(増田)
「逃げ」は言い過ぎだと思うけど、自分の力を少しでも社会に還元する、社会が少しでも良くなるように働くのが「仕事」だと思っている節はある。そういう意味では、育休期間中は国や自治体から「そのエネルギーを家庭や子育てに使いなさい。一定の期間は手当も出すから」と送り出される感じで休業していた感じかな。自分はね。
(伊豆田)
自分の力を少しでも社会に還元する、社会が少しでも良くなるように働くのが「仕事」という点は同感。でも、それは「家事育児」も同じだと思う。増田の奥さんは専業主婦として家事をして増田を支えてる。子どもを育ててる。巡り巡って社会に還元してる。職に就いてる人だけが社会をより良くしてるわけじゃないと思う。
どちらかといえば、「エネルギーの向かう先を仕事に集中させるのでなく、分散させるきっかけにしましょう」というのが男性育休取得率を高める本来の目的なのでは?という気がした。
受け止め方の問題であって、男性育休取得を進める政府や企業の真の狙いは、また別のところにあるだろうけど。
(増田)
そこまでは考えてなかった。
「女性の社会進出」は言われて久しいけど、いまは「男性の家庭進出」を促している真っ最中という感じか。
(つづく)
【プロフィール】
増田哲也:静岡県牧之原市生まれ。2005年静岡放送入社。社会部記者や編成、営業を経て、2022年から夕方ニュース番組「LIVEしずおか」編集長。2024年4月からバラエティーやドキュメンタリーを制作するディレクターに。アスリート、会社員を経て現在は専業主婦の妻、長男ツン(2)、次男タダチン(0)と4人暮らし。近所に頼れる親族はなく、長男の誕生以降、家事育児は妻が担ってきた。2024年4月の次男誕生をきっかけに約1か月半の育児休業を取得。
伊豆田有希:広島県福山市生まれ。静岡新聞などで18年間新聞記者。人事異動で2023年から静岡放送報道部の記者兼ディレクター。小学生の長男(11)、次男(8)、保育園児の長女(5)、メーカー勤務で遠距離通勤の夫と5人暮らし。2023年3月まで9年間、短時間勤務制度を利用した。次男と長女の誕生後はそれぞれ1か月ずつ夫も休みを取得。現在は夫が週2日在宅勤務。2週に1回は家事代行業に頼りながら、夫婦2人で家事育児を分担している。