エコノミークラス症候群

ですので、足の静脈血は、足を動かすことによって心臓に返って行くこととなります。

じゃあ寝ている時とかはどうなんですか?と思うかもしれませんが、人って意外と寝てる時も動いてるんですよね。ごそごそ、もにょもにょ足を無意識に動かしているのです。

ただ、そうもいかない時があります。エコノミークラス症候群という病名を聞いたことがあると思います。例えば災害時など、車の中で寝続けなければいけないような状況の時は、車は狭いのでなかなか動くことができませんし、飛行機のエコノミークラスの狭い席に座って、長時間の移動になると何時間も動かない状況に置かれてしまいます。

すると、足の静脈血が心臓に流れて行きませんので、だんだん固まってきます。血液は流れないと固まり、血の塊(血栓)を作ります。ひどい場合は足の静脈の中が血栓だらけになってしまうのです。

で、朝になって車から降りて歩き出したり、飛行機が目的地に到着して動き出すと、血栓は心臓方向に送り出されますので右心房にたどり着き、右室、肺動脈へと流れていき、肺動脈に詰まってしまいます。予防するためには、ちょこちょこ足を動かしてください。また、血液を固まりにくくするお薬もあります。

足の静脈に血栓ができただけ、肺動脈の一部に詰まっただけ、など軽症から重症までありますが、牧野さんの場合は非常に重症です。

牧野さんは大腿骨骨折で整形外科に入院していて、長期間、動けない状態が続いたのでしょう。足の静脈に大量の血栓ができ両側(りょうそく)肺動脈に血栓が詰まってしまいました。すると肺に流れる血流がまったく無くなってしまいますので、血液は酸素を取り込めなくなります。酸欠状態になりますので、非常に苦しく、意識が遠のいていきます。終いには、心臓にも酸素が足りなくなり心臓はうまく動けずショック状態に陥ってしまいます。

治療は血栓を溶かすような薬剤を飲んだり、点滴したり、また、下大静脈にフィルターを入れて血栓が心臓に上がってこないようにします。

牧野さんのように非常に重症な時は人工心肺を回して、カテーテルを挿入して血栓を溶かすか、手術で肺動脈の中から血栓を取り出さないといけません。普通は正中切開で、胸を開けて手術を開始するのですが、牧野さんは子供の時に心臓の手術(ファロー四徴症の手術:この病気の説明は大変なので省かせていただきます)をしていたので、癒着が激しく再度正中から手術を行うのが困難でした。