循環停止とは
高階先生は左開胸で肺動脈の血栓を取り出す手術の経験が海外であったようですので、左開胸での手術を提案します。左開胸ですと、まだ左の肺動脈の血栓はとれるのですが、右の肺動脈は非常に遠くなってしまいますので大変です。
「関川先生早く人工心肺を回して18度まで下げてください」
「循環停止お願いします」
なぜ18度まで下げるかと言いますと、18度まで体温を下げることで体をいわば冬眠状態にします。冬眠状態になると熊が冬眠の時に餌を食べなくても平気なように、体に血液が流れなくてもある程度は大丈夫になります。人為的に体に流れる血流を止めることを、「循環停止する」と言います。
肺動脈の中の血栓を取るときに、体に血液が流れていると肺動脈からどんどん血液が漏れてきてしまうのです。そこで、循環停止をして体の血流を止めると肺からの血流(バックフローとか言います)がなくなります。すると術野に血液が無くなり(これを無血野といいます)、非常に血栓が取りやすいのです。
18度で安全に循環停止をできる時間は15分と言われています。15分循環停止して、血栓を取って、10分人工心肺で血流を再開して、また15分循環停止して血栓を取るを繰り返します。この循環停止をして、無血野を得る技術は大動脈の手術でも使われています。
肺動脈の血栓は肺動脈の壁にくっついており、乱暴に取ると肺動脈がちぎれてしまいます。そこを慎重かつ正確な手技で血栓を摘出。高階先生の真の実力を発揮した手術でした。小春ちゃんの時の渡海先生とは対照的に、静寂の中での手術。
高階先生がクーパーでドレープを切るとき、渡海先生の左手セッシをカチカチカチカチしていたのは、よくある外科医の苛立ちシーン。これもアドリブ!「お前が死にそうじゃないかよ」と吐き捨ててオペ室を後にするシーンも、もともとのセリフは「じゃ俺はこれで」でした!確かに高階先生、精魂尽き果てていました!
次回は小春ちゃんの手術について解説します。
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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科
山岸 俊介
冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。