二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された4話の医学的解説についてお届けする。
※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。
感染性心内膜炎とは
高階先生は手術直前の経食道心臓エコー検査で僧帽弁にベジテーションを見つけます。ベジテーションとはvegetationと書いて日本語だと疣贅(ゆうぜい)と言います。簡単に言うと菌の塊です。
僧帽弁閉鎖不全症の原因の一つに感染性心内膜炎という病気があるのですが、この感染性心内膜炎は細菌がどこからか血液の中に入り込み(歯の治療や手術等によって入ることが多いと言われます)、心臓の内側の膜(特に弁の膜などが多いです)に菌が住み着いてしまい、組織を破壊してしまう病気です。
組織を破壊してそこに菌がどんどん繁殖すると菌の塊(疣贅:ベジテーション)ができてしまいます。弁は破壊されてしまうので、扉が虫に食われてしまうのと一緒で、うまく閉じることができないのです。
この心臓の内膜に細菌がくっついてしまうのには、ある程度のきっかけが必要で健康な心臓の人にはほとんどくっつかないと言われています(歯医者に行くたびに感染性心内膜炎を起こしてしまったら大変です)。
もともと僧帽弁閉鎖不全症があったり、大動脈弁の一部が弱く逆流があったり等、心臓の中に何らかの原因で乱流が起こっていると、そこに菌がつきやすいと言われています。
最初の心エコーではわからなかったの?という疑問が生じるとも思いますが、病棟で行った経胸壁心臓エコー検査(胸にあてて行う検査)よりも、手術室で行う経食道心臓エコー検査(口の中からエコーを食道に入れて行う検査)の方がより僧帽弁が見やすいので、十分にシチュエーションとしてはあり得る展開です。
ここで菌の塊がある場合、そこにスナイプで人工弁を入れてしまうと、菌の塊を潰してしまい、菌が全身に飛んで行ってしまいます。ひどい場合には脳梗塞等を起こしてしまい、脳神経障害が出てしまいます。この場合は早急に、菌の塊を切除しなければなりませんので、スナイプによる人工弁置換はできないこととなります。
そこで高階先生は普通の正中開胸の僧帽弁手術に切り替えようとするのですが、
「大動脈が石灰化していて心臓を止めることもできない」と言います。
これも心臓外科医あるあるで、かなりマニアックな発言です。