(特発性)肥大型心筋症と僧帽弁閉鎖不全症
今度は田村さんは何で肥大型心筋症と僧帽弁閉鎖不全症の2つの病気があるの?という疑問がわくと思うのですが、ここで僧帽弁の構造をおさらいすると、僧帽弁は扉です。ホントの扉のように2枚の扉で出来ています。それぞれ体の前にある方を前尖(ぜんせん)といい、後ろ(背中)にある方を後尖(こうせん)といいます。
ここから分かりにくいので図を参照ください(図1:肥大型心筋症の心臓の左側の絵)。
肥大型心筋症は特に原因がないのに、左心室の筋肉が分厚くなり、左心室の中が狭くなってしまう。すると左室の中の血流はジェットのようにブシュ—っと大動脈に出ていきます(筋肉もりもりですので中の血液はすごい勢いで出ていきます)。するとその血流の隣にある僧帽弁の扉はそのジェットに引っ張られてしまうのです。これを僧帽弁前尖の収縮期前方運動といいます。僧帽弁の前尖(前方にある扉)が心臓が収縮したときに前方に動いてしまう、という意味です。
この早い血流(ジェット)が流れた時に僧帽弁前尖(非常に薄い)がヒラヒラと前方に動いてしまう現象はベンチュリー効果によって起こるといわれています。ベンリュリー効果とはスカートの女性の隣をめちゃくちゃ早い車が通過したときにスカートがヒラヒラめくれる現象を引き起こす効果だと思っていただければ大丈夫です。
というわけで心臓(左心室)が縮んで血液を大動脈に駆出するとき(収縮期)には、本来ならば閉じていなければいけない扉(僧帽弁前尖)がヒラヒラと前方に移動して閉じないのですから、図1の赤枠矢印の方向に逆流を生じるわけです(僧帽弁逆流=僧帽弁閉鎖不全症)。

僧帽弁前尖収縮期前方運動だったりベンチュリー効果だったり、なんだか難しい話になってしまいましたが、とにかく左心室の筋肉が原因なく分厚くなり、スカートがヒラヒラしてしまうような早い血流が僧帽弁の横を通り過ぎるので僧帽弁が閉じなくなってしまうと理解していただければ大丈夫です。
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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科
山岸 俊介
冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。