鹿児島では防衛を巡る動きが活発になり、自衛隊基地整備が計画される西之表市・馬毛島では住民の賛否が分かれる中、整備への動きが加速しつつあります。
馬毛島で計画される基地、訓練とは?そして、地元の首長はどう対応するのか?
鹿児島と防衛を巡る動きを記者解説で深掘りします。
早ければ4年後にも米軍機が… 馬毛島で計画される訓練とは?
道山記者:
西之表市の馬毛島は、種子島の西12キロにある無人島で、ほとんどを国が保有しています。面積は8平方キロメートルで、東京ドームで言えば175個分ほどの広さです。
今、この島で計画されているのが、自衛隊基地の整備とアメリカ軍の訓練移転です。

馬毛島に移転されるアメリカ軍の訓練は、空母艦載機の陸上離着陸訓練=FCLPです。陸上の滑走路を空母の甲板に見立て、空母艦載機が着陸と離陸を繰り返す訓練です。狭い空母の甲板に着陸するには非常に高度な技術が必要なため、一定の頻度で繰り返し訓練を行う必要があり、馬毛島では年間最大20日程度の訓練が想定されています。
もともとFCLPは、空母航空団の拠点があった神奈川の厚木基地で行われていましたが、騒音被害が深刻となり、厚木からおよそ1200キロ離れた小笠原諸島の硫黄島が訓練地となりました。

しかし、その後、空母航空団の拠点が山口の岩国基地に移ったことで、岩国から硫黄島までの距離は1400キロとさらに遠くなりました。パイロットの安全確保などのため、アメリカ軍がより近い場所を求めていたところ注目されたのが、岩国からおよそ400キロの距離にある馬毛島でした。
いずも型護衛艦「空母化」視野の訓練施設も

馬毛島ではアメリカ軍のFCLPのほかにも、自衛隊のいずも型護衛艦の「空母化」を視野にいれた訓練も行われます。自衛隊はいずも型護衛艦の「いずも」と「かが」に、垂直着陸できる戦闘機「F-35B」を搭載する計画です。

防衛省は、馬毛島にいずも型護衛艦の甲板や艦橋を模した施設を建設し、F-35Bの離着陸訓練を行う計画です。これまで自衛隊は護衛艦で戦闘機を運用したことはなく、「空母化」へ向けた習熟が目的とみられます。

このほか、舗装されていない場所への輸送機の着陸、迎撃ミサイル「PAC3」の展開、パラシュート降下、離島防衛のための着上陸訓練など、自衛隊による様々な訓練が計画されています。
自衛隊の離着陸訓練など騒音が比較的大きい訓練が年間130日程度、深夜を除いて行われる見込みです。種子島上空は飛行せず、離着陸の際の騒音の影響も限定的としています
国は早ければ今年度中に着工して、2026年度までにアメリカ軍のFCLPを移転させたい考えです。
漁船の座礁を防ぐための工事? それとも基地工事のスタート?
山口真奈アナウンサー:
馬毛島への自衛隊基地整備をめぐって、今週は大きな動きがありました。
国は16日、馬毛島の東側にある葉山港で、水深を深くするしゅんせつ工事を始めましたが、基地の工事が始まったわけではないんですよね?

しゅんせつ工事自体は、種子島漁協が漁船の座礁を防ぐためとして国に求めていたものです。市と県は「漁業者の安全を確保するため」として工事を許可しています。
ただ、葉山港は、基地整備のための物資の運搬にも使われることから、基地計画に反対する住民からは「実質的な基地建設の始まりだ」として懸念の声が上がっているんです。

山口アナウンサー:
基地計画を巡っては、地元では賛否が分かれていますよね。
道山記者:
アメリカ軍の訓練移転に伴う再編交付金や、自衛隊関連の人口が増えることで、地域活性化への期待もある一方、有事の際に島が攻撃対象にならないかという不安や、騒音、環境への影響など懸念の声も上がっています。
賛否示さなくなった地元市長… 「態度があやふや」と厳しい声も
山口アナウンサー:
こうした中で、西之表市の八板市長は計画への賛否を明らかにしていませんよね。
道山記者:
八板市長は去年の市長選で計画反対を掲げて当選したものの、その後、「市民の分断を助長する」などとして賛否を明言していません。17日の会見でも賛否を明らかにしませんでした。
地元では賛成派・反対派双方から、賛否を明確にするよう求める声が上がっています。

山口アナウンサー:
そんな中、西之表市は、きのうから八板市長が出席して住民説明会を開いていますが、どんな目的なのでしょうか?
道山記者:
八板市長の意思表示の前提となるのが、16日から市が開いている基地整備に関する住民説明会です。
西之表市の住民からは、アメリカ軍の戦闘機などが市街地上空を飛ばないか?といった事故や騒音への懸念があります。
こうした点について、市は防衛省に対策を求める21項目の要望を出していて、その回答が今月10日にあったことから、16日夜から説明会を開いています。
初回の16日の説明会では、住民から「基地建設を前提にした内容ではないか」「市長の態度があやふや」という厳しい声も上がりました。
山口アナウンサー:
八板市長は、いつ賛否を明らかにするのでしょうか?
道山記者:
八板市長は、住民説明会で出た市民の意見などを踏まえて賛否を示す考えです。住民説明会は22日まで校区ごとに開かれます。
八板市長は「基地問題にとって9月が重要な節目のひとつになる」と述べていて、9月の市議会定例会が大きな焦点となりそうです。
馬毛島に自衛隊基地、鹿屋に米軍無人偵察機… 鹿児島で今、何が?
山口アナウンサー:
馬毛島以外に、県内では鹿屋基地でアメリカ軍の無人偵察機の一時配備も来月ごろから始まりますよね。鹿児島で防衛を巡る動きが、活発になっている印象があります。
道山記者:
鹿児島を含む九州から台湾にかけての「南西諸島」は、防衛の最前線にあると言われています。背景にあるのが、中国の海洋進出と台湾での有事の懸念です。

屋久島周辺の領海では、今年4月と7月20日に中国海軍の測量艦が侵入しました。「中国の潜水艦が通過できるルートを調べるため」との見方を示す専門家もいます。

また、台湾を巡っては、中国は台湾は中国の一部という原則を堅持していて、外国勢力の干渉を強く拒否しています。
今月はじめ、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことで、反発した中国が台湾周辺で実弾射撃を伴う軍事演習を行いました。
山口アナウンサー:
こうした中、国内では鹿児島を含めて日米の共同訓練が行われていますね。
道山記者:
今月14日から来月9日にかけて、奄美大島や霧島演習場などで日米の共同訓練「オリエント・シールド」が行われています。奄美大島では初めてアメリカ陸軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」が展開する訓練も行われます。

ハイマースは、ロシアによる侵攻に対抗するため、アメリカからウクライナにも提供されている兵器です。
南西諸島は中国海軍が太平洋に進出するルートにもなりえるため、離島への日米双方の展開力は重要視されているテーマです。
中国・台湾の情勢を巡り、鹿児島は防衛の最前線にあるともいわれます。
国が防衛の強化を進めていく中、住民には訓練で事故が起こるのではといった不安や、有事の際に標的となるのではという懸念があります。
有事となった場合の避難計画を含め、住民の不安や懸念をどう解消するのか?国や地元自治体には丁寧な対応が求められると思います。