日本人初のハードル2種目代表を狙う豊田兼(21、慶大4年)が、陸上競技日本選手権(6月27~30日、新潟)の2日目、男子400mハードルに優勝し、今大会のパリ五輪代表内定第1号になった。優勝記録の47秒99は日本歴代3位の快記録で、五輪&世界陸上でも決勝進出が期待できる。豊田と慶大短距離ブロックの高野大樹コーチが、取り組んできたプロセスが結果につながった。そのことでパリ五輪に向けてやるべきことが明確になった。

47秒台は想定内の記録だが、優先順位的には一番ではなかった

フィニッシュ脇のタイマーは48秒01で止まった。このタイマーはセンサーが反応して止まる仕組みだが、写真判定の記録装置とは連動していない非公式タイム。正式記録は47秒99と発表された。

「48秒01を見た瞬間に変わってくれないかと期待したのですが、その通り47秒99に変わって本当に嬉しかったですね。昨日の予選は余力があったので、決勝は前半から飛ばすレースをした上で優勝する。上手くいったときには好タイムが出るだろうと予想はしていたので、レースプランの想定内の走りができたな、という感想です」

想定内ではあったが、そのタイムを出すこと自体が目的ではなかった。

「やりたかったのは前半を飛ばすことと、勝負に勝つことでした。記録は48秒1から48秒2が出せればいいと考えていて、47秒台まで来るとは正直思っていませんでしたね。やりたいレースをすれば記録も付いてくる。優先順位としてはそういった感じでした」

それでも47秒台の価値は大きい。為末大が01年に出した47秒89の日本記録(世界陸上エドモントン大会決勝)、成迫健児が06年にマークした47秒93の日本国内最高記録(国際グランプリ大阪)に次ぐ日本歴代3位。18年ぶりの快記録だった。このタイムを五輪&世界陸上の準決勝で出せば、決勝に行くことができる。


高野コーチが説明する予選と決勝のハードル通過タイム

高野コーチは予選と決勝の違いを、次のように説明する。

「昨日の予選のあと、決勝のハードル毎の通過タイムを豊田とやりとりしながら出したのが、(日本記録を上回る)47秒82でした。予選はゆとりがありましたし、練習で5台、8台くらいまでは日本記録を出すくらいのタイムではやっていました」

レース当日の練習では、ハードル間を3秒67で3台目まで走った。だがそのタイムは、想定した通過タイムより少し速かった。

「(3秒67は)ちょっと速すぎる、と言いました。速度出しすぎ注意だけど、昨日のようなゆっくりすぎ(予選は2台目までが3秒73で3台目までが3秒87)も注意だよ、と。ちょうど中間くらいだと僕が言って、豊田が『じゃあ、このくらいの出力で行きます』みたいなやり取りをして送り出しました」

この日の豊田は1~2台目こそ3秒67と、やりたかったタイムより速く入ってしまったが、2~3台目は3秒77で前日より速く、しかしアップ時よりは遅く走った。中・長期的に積み上げてきた練習と、直前の練習をしっかりと噛み合わせて、最適の試合ペースを作る。選手とコーチの息が合っているからこそ、出すことができた47秒台だった。