頭が大きく立派な大あごの「兵蟻」でも、臆病で鈍重?

ーそれにしても、役割によって見た目がずいぶん違うんですね。

(大野さん)
「立派な大あごを持つ兵蟻は、さぞかし勇ましい兵隊…かと思いきや、仲間が襲われていても助けに来ることはあまりありません。巣を守るための勇ましいヒーロー!…とは思えない臆病さです」

「巣の外に出してやると頭が重いようでほとんど動けないし、一目散に逃げだそうとします。何より敵に襲われたらその動きの鈍さから敵にとっては格好の的。逃げ惑う働きアリよりも先にやられてしまいます」

「頭が大きくて普段エサも自分で採れず、仲間のお世話をすることもできないので、働きアリにお世話をしてもらっているのに、なんとも弱腰の兵蟻で、数もそんなに多くありません」

ー兵隊アリが逃げだそうと??

(大野さん)
「これはあくまで外に出したシロアリたちを観察しているとそう見えるだけです。では、普段兵蟻が何をしているかというと仲間のための楯となることです」

「シロアリの天敵はアリなのですが、シロアリは木の中などで細いトンネルを作って生活しています。迷路のような巣の中にアリが侵入してくるとまさに塹壕戦のようです。天敵であるアリは集団戦術が得意で、時には自分よりも大きな獲物をしとめたり、敵を追い払ったりするのが得意です」

「巣の中に大量にいて、柔らかいシロアリはある種のアリにとって大好物のごちそうです。狭い入り口から侵入してきて、中にいるシロアリを襲おうとします。この時、兵蟻がトンネルのフタになります。大きな頭でトンネルの狭い場所に陣取り、相手に顎を向けます」

「鈍重で目の前(目はありませんが)しか攻撃範囲はありませんが、こうしてしまうとどんなに強いアリでもこの厄介な障害物である兵蟻を倒すのに手間取ります。その隙にほかの仲間たちは危険な場所からどんどん逃げていきます。この時の時間稼ぎが兵蟻の最大の存在意義なのです」

「兵蟻はその他にも、結婚飛行の時期に翅アリたちと同じように巣から顔を出します。翅アリたちが戻ってこないように押し出している、ということもあるかもしれませんが、大きな頭は明るい薄茶色、翅アリたちが天敵に襲われにくくするように、自分のほうに敵を引き付ける囮になっているのではないかといわれます」

ーシロアリの天敵がアリだったとは!

【後編】では、シロアリとアリの関係について教えてもらいます。