ドローンにより実現した「原爆さく裂点」から見た長崎の街
「対象がある限り撮影が続けられる」という流れはできましたが、ドローンだからこそ初めてできたという報道取材ができないか?その一つが冒頭に書いた「雲仙普賢岳溶岩ドーム」。そしてもう一つ、「原爆がさく裂した場所から長崎の街を見る」という撮影にも挑戦しました。
太平洋戦争末期の昭和20年8月9日午前11時2分。アメリカの爆撃機B―29から投下された原子爆弾ファットマンは長崎市松山町上空500メートルでさく裂しました。
長崎市には爆心地公園があります。そこは原爆がさく裂した場所の真下に当たる場所で厳密にいえば爆心ではありません。その場所の上空500メートルが原爆がさく裂した場所なのです。そこから長崎の街を見るといままで想像していなかったようなものが見えるのではないか?
実はこれと同じことを1990年代にヘリコプターを使ってやろうとしたことがありました。しかし、当時のヘリコプターは今のような外付けカメラではなくテレビカメラを機内に持ち込んでの撮影、真下を撮るためにはヘリコプターの機体を横倒しにする必要もありました。
高速で爆心地に接近しターンをすることで機体を右に傾け真下を撮るということまでしましたが、うまくいきませんでした。普通に考えるとけっこう無茶なことです。でも、ドローンなら可能になる。想像は膨らみましたが、この撮影には障壁もありました。
ドローンの高度制限です。ドローンを飛ばしていると「どこまで飛べる?何分飛べる?どの高さまで上がれる?」ということを聞かれることがよくあります。NBCで使用している機体だと水平限界距離が5キロで、飛べる時間は25分。高さは航空法で原則150mと定められています。
水平距離や時間は特に問題ではなかったのですが、500メートル上空まで飛ぶために高度問題を解決する必要がありました。法的な高度制限は空域を監督する空港への申請で解除することができます。まずこの手続きが必要でした。
法律の高度制限を突破しても機械の性能や設定の限界というものがあります。ドローンって法律のことを考えなくていいのであれば性能的に高度何メートルまで上がれるのか?これはメーカーや機種によりおそらく違うのだろうと思いますが、当時我々が使っていた機体の設定限界高度が500メートルでした。原爆さく裂点の高さと偶然の一致です。何とか指先が届いたというのが当時の感想でした。
法律上の制限の解除手続きを行い、機体の限界高度MAXを設定しそれに合わせて場所を管理する長崎市と交渉し撮影が可能になりました。

2017年8月、爆心地公園に観光客が訪れる前の早朝6時半に撮影を始めました。ドローンは原爆落下中心地を示す標柱から真上に向かって上がっていきます。高度500メートルに到達するまで3分近くかかりました。
驚いたのはそこから見た長崎の街が意外に間近かに見えたことでした。人はさすがにわかりませんでしたが、車が動いているのがわかります。街が動いていることは十分に感じ取ることができました。72年前にここから放射線が広がり熱線が人々を焼き、爆風が街を破壊した。それらの害厄はこんな至近距離から放たれていたのかということを感じました。
地上から見上げても原爆さく裂点は特定できないので、惨劇を想像するには限界があります。しかし、逆の視点から見たときに命を奪われ破壊される対象は目の前に広く広がっていました。
この時の映像は2017年8月9日のニュースで放送しました。現在もYouTubeでご覧いただくことができます。(検索「爆心地上空500メートル」)