「民主主義を後退させてはならない」「今こそ台湾のために」再び立ち上がった若者たち
5月24日夜。台湾立法院の前に10万人の市民が集結した。

「民主主義を後退させてはならない、ブラックボックスの審議を拒否する」
「議論をしなければ、民主主義ではない」
集まった人々が掲げたプラカードに書かれていたスローガンだ。
市民たちはなぜ、立法院の前に再び集まったのか。背景は少し込み入っている。
1月の総統選とともに行われた立法委員選挙で与党・民進党は過半数を割り込み、台湾の政治は今「ねじれ状態」となっている。そんな中、最大野党・国民党と民衆党が、総統に対し定期的に立法院での報告を求めることなどを盛り込んだ法案を提出した。立法院の権限を強化し、総統や行政院の権限を縛る狙いがあるものとみられる。
これに対し「頼清徳政権を弱体化させるものだ」と民進党が反発。与野党の議員が乱闘騒ぎを起こすまでに発展した。
こうした事態に主に民進党の支持者たちが「議会運営が民主的ではない」と危機感を抱き、座り込みを行ったのだ。

集まった人々のなかには、「ひまわり学生運動」を知らない、10代20代の若者も数多くいた。
大学2年生・女性
「立法院で市民が注視しなければならない状況が起きています。立法委員の人たちがちゃんと仕事をしているのか監視しにきました」
高校2年生・女性
「ひまわり運動のとき私は小さくて何もできなかったけど、テレビで見て感動しました。いまこそ台湾のために何かしたいと思って来ました」

先ほど登場した王さんのように、今回取材したひまわり学生運動世代からは、いまの若者たちは民主主義の大切さを理解していないのではないか、という心配の声が聞かれた。
しかし多くの若者たちが「民主主義を守るため」と街に繰り出し、自分たちの想いを訴える姿を目の当たりにして「台湾の民主主義を大切にする」という価値観がしっかりと受け継がれているように感じた。

取材後記
10年前に起きた「ひまわり学生運動」。参加者の話を聞いて、運動は結果的に台湾が中国とは違う「台湾としての道」を選ぶ大きな原動力となり、台湾が台湾であるための根底にあるのは「民主主義」である、という意識を再確認させるものだったのではないか、と感じた。
「ひまわり学生運動」から10年。台湾と中国をめぐる関係は年々緊張感を増し「台湾有事」という言葉が広く使われるようになるなど、台湾は世界の注目を集める場所となっている。
政治的、軍事的に対立する一方で、同じ言葉を使い、同じ文化圏に属する台湾と中国。時に近づき、時に離れるという、微妙なバランスの上にその関係は成り立っている。台湾市民は、そのバランスを敏感に感じ取りながら、日々暮らしている。それが台湾の人たちの高い政治意識の背景にあることを改めて感じた。
中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行ったり、立法院では野党の激しい抵抗にあうなど頼清徳政権は早くも難題に直面している。台湾の人々は新政権がどこに台湾を導くのかを注意深く見つめ続け、時には声を上げ、意思表明をしていくのだろう。
台湾はこれから中国とどのように向き合っていくのか。台湾の民主主義はどう変化していくのか。私もその行く末をじっと見守り続けたい。
JNN北京支局 室谷陽太