■ウェブ会議に乱入されるから親の部屋に鍵をつけて閉じ込めた

テレワークと介護の両立を始めたAさん、親は軽い認知症でした。しかし、仕事の邪魔になるからと鍵をかけて親を閉じ込めるという、虐待にあたる行為に発展しました。

「Aさんは親に『これから(オンライン)会議だから話しかけないで』と伝えていたんですが、Aさんの親は記憶力が低下していました。ですので『話しかけないで』と言われても記憶に定着しないんです。親からすると、“部屋の中で娘がわけわからん箱に向かってわんわん独り言を言っている”という風に見えるんですね。それで『あんたどうしたんだ』って娘に話しかけてしまいます。そうするとAさんは、話しかけないよう伝えたのにって、ついつい怒鳴っちゃうんですって。怒鳴ると親はより不安になって、話しかけの頻度は高くなります」

親孝行のために頑張ろうと一人で背負うことで、意図せず虐待につながるケースが散見されるといいます。自分がうとうとしている間に母親がトイレに行って転んだから、転ばないように親を守りたいと思った息子が、親をベッドに縛り付けるといった例もあったといいます。

■「自分がいるから」ヘルパーやデイサービスを断ってしまう

出社していた時は母親をデイサービスに送り出していたBさん。しかしテレワークを始めると母親は「どうしてあんたが家にいるのにデイサービスに行かなきゃいけないの?」と行くことを拒むようになりました。1日中家に母親がいる状況では仕事にならず、Bさんは退職することも考え始めています。

「デイサービスに行くといろいろ面倒な人もいるとは思います。でもそれが社会なんです。子どもがテレワークすることで親がデイサービスに行かなくなっちゃうと、ケアの幅みたいなものが失われる。デイサービスは“預かり所”ではなくて、人と交流することで社会機能・身体機能の維持、ストレス発散できる場所と考えてもらえたら」

■仕事では優秀だけど・・・“やりすぎて”しまうがための弊害

仕事ができるビジネスパーソンのCさん。テレワークで家にいるようになると、親の必要なことを察知し、すぐ解決してあげるようにしていました。しかしそれに慣れてくると、親は「なんでこれはないんだ?」「あれはどうした?」とCさんを叱責するようになりました。

「ペットボトルの水を冷蔵庫に取りに行って自分で飲めていた人が、娘さんが家にいると、フタを開けて渡すってなっちゃう。それが続くと、筋肉は衰え、そのうち自分でキャップを開けられなくなるなど介護状態の促進につながりかねません。子どもが近くにいることで、親は子どもに甘え、自分の思い通りにならないことに怒ることも」