水素エネルギーへの期待と普及への課題は

選手村跡地での水素製造は、前述した通り都市ガスから水素を取り出す方法だ。その際には二酸化炭素も発生する。現状では発生した二酸化炭素は、大気中に放出されている。このように化石燃料から製造され、発生した二酸化炭素を放出する水素は、グレー水素と呼ばれている。

同じように化石燃料から製造されて、発生した二酸化炭素を回収または貯留して、大気中に放出しない水素はブルー水素。再生可能エネルギー由来の電力を利用して、水を電気分解して生成される水素はグリーン水素と呼ばれる。グリーン水素は製造過程で二酸化炭素が排出されない。

このように水素は、製造過程での二酸化炭素の排出が少ない順に、グリーン、ブルー、グレーと色で表現されている。また、原子力発電による電気を利用してつくられたものはピンク水素と呼ばれる。

東京都では現在活用しているグレー水素から、ブルー水素やグリーン水素の活用を拡大して、2030年までに水素の社会実装化を目指す。その上で、政府がカーボンニュートラルを目指している2050年には、産業のあらゆる分野でグリーン水素の活用を広げていく方針だ。

もちろん課題もある。まち全体に水素のパイプラインを通すことができたのは、大規模な再開発だったからだ。福岡市でも現在、九州大学箱崎キャンパス跡地の再開発で、水素ステーションの整備とパイプラインによる水素の供給を計画している。こうした大規模開発以外でどうすれば広げていけるのかは、今後検討していく必要がある。

それでも、環境への負荷を低減させることができて、貯蔵が可能で、災害時にエネルギー源として使うこともできる水素への期待は大きく、国内のさまざまな産業で活用が進められている。脱炭素社会を実現するためには、水素が鍵の一つであることは間違いなさそうだ。 (「調査情報デジタル」編集部)

【調査情報デジタル】
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