8月11日に甲子園初戦を迎える高松商業。彼らにとって甲子園という舞台は一つの“恩返し”です。

実は高松商業は昨年12月にイチローさんの指導を受ける機会がありました。

イチローさん:
みんな知ってると思うけど、今回僕が伺ったのは、夏の大会の監督の爆弾発言からです。

2021年、夏の甲子園。高松商業は2回戦でその前年にイチローさんが指導した、智弁和歌山高校と対戦しました。

3対5で試合に敗れた直後、高松商業の長尾健司監督がインタビューで発した言葉。当時のことを長尾監督はこう振り返ります。

長尾監督:
イチローさんが来たか来なかったか、この差が大きかったですねと言ったんです。来てくれたらひょっとしたらやる気まんまんでウチもいい勝負になったかもしれない、っていうことを言っただけなんです。

この言葉こそ、イチローさんが高松商業を訪れるきっかけとなったのです。


イチローさん:
監督の情熱とかみんなの野球に対する思いなんかを伺っていて、これはぜひ行ってみたいなと。何かあれば何でも聞いてください。2日間、宜しくお願いします。


こうして始まったイチローさんの高松商業への野球指導。選手たちにとっては夢のような時間でした。

江西一郎選手(当時1年):
次、僕の打席が来た時に悪いところとか、指摘してもらってもいいですか。

イチローさん:
1回見たいです。

イチローさんのもとに、次々と選手が質問に訪れます。

江西選手

山田一成選手(当時2年):
質問していいですか。2年(当時)の山田です。インコースを打つときに詰まってしまう。距離の取り方というか、バットの出し方を教えてください。

イチローさん:
距離の取り方というか、詰まるの嫌だよね。ただ詰まるのを肘をこう引いて芯に近づけるのは絶対にやめてください。詰まってる状態は別に構わないので、そこから同じスイングで捉えられる感触を得られるからそれを続けてたら。


野嶋大輔選手(当時2年):
バットの出し方はイチローさんはどのイメージですか?

イチローさん:
僕はこの軌道。体の前。こう入って巻き付いていくイメージ。

林息吹選手(当時2年):
打てないときの練習法って・・・。

イチローさん:
打てないときの練習法?バット振っとけ(笑顔)。

高松商業を訪れた時のことをイチローさんはこう振り返ります。

イチローさん:
最初グラウンドに入った時の感じが「はやくやりたい!」。最初から壁がないっていうか、下級生と上級生のそれがないように、僕ともそんなになかったような印象を受けました。

さらに打撃練習ではイチローさん自ら、バットを握り実践指導を行いました。



イチローさん:
もうバテてきてる。けどここから形崩さずに振る練習が大事なんです。疲れたからと言って楽な形にならない。すごく大事なこと。

しんどくなって振れなくなったあとに、いかに形を崩さず振るかー。「全力の中で形を作る」。これこそ、イチローさんが大切にしていることでした。

それはキャッチボールでも同じこと。

イチローさんはキャプテンの浅野翔吾選手(3年)にこう指導しました。

イチローさん:
なるべくこういう(強い)球を。まずは投げやすいように。とにかく1日に10球でも5球でもその意識を必ず持って。

練習が比較的長時間に及ぶ高校野球では、無意識のうちに力をセーブするクセがついてしまう。長い時間でも常に試合を意識して準備する大切さを伝えたのです。


浅野選手

さらに走塁では、これまでの走塁の常識を覆す指導が。

イチロー:
走塁難しくない?打つ守る走る、何が一番難しいと感じる?ゲームの中で。打つのは確率で言うと3割、良く言ったって4割。高校野球の一つの大会だけだったら5割とかあるけど、長い間やってたら3割ですよ。だから7回失敗できる。でも走塁はできないでしょ?走塁が難しいのは打球判断。すごく難しいよね。でもベンチから見てたらわかるよね。あれなんであいつあそこで飛び出すんだよって。そういうプレーをできるだけなくしたい。そのために邪魔になるのが頭が動く、上下する。そうすると目の位置が動くので、ここでバットとボールが当たる瞬間の判断って、当然難しいよね。ごくごくシンプルなんだけど、この形。(歩くようにリードをとるイチローさん)シャッフルの時と。

通常、第2リードは上下にはねるようにとることで目線の位置がブレ、打球の判断がしづらくなります。しかしイチローさんは上下に跳ねず、頭の位置を動かさずに歩くように移動することで、打球の判断をしやすくするよう指導。これまでの走塁の常識が変わった瞬間でした。



2日間の指導を終えたイチローさんは選手たちにこんな言葉を送りました。

イチローさん:
フリーバッティングで使っていたバットを置いていきます。僕に見られてる感じするでしょ、こうやって見てるからね、みんなのこと。監督(のこと)も見ていますよ。

終了後、学校に戻るバスでは、それぞれが感じたことを話し合いました。

甲田和喜選手(当時1年):
今までキャッチボールした人の中でレベルが違うくらい手が痛くて、ノビもすごくて、こ
れ以上ない経験が出来たと思いました。

大室亮満(当時1年):
イチローさんに指導してもらえるのは、やっぱり数少ない高校だけなので、この体験を今
後の野球人生に活かしていきたいと思います。

長尾監督:
何キロ目指すんや?

大室選手:
160キロです!

長尾監督:
恩返しはプレーで返す。もうそれだけです。優勝、それは香川県ではなく甲子園で優勝。それだけ目指して頑張りましょう。