本社に無断で受けた検定結果で国防総省に応札 その結果は?

アメリカ国防総省に応札

―――アメリカ駐在で大きな転機は?
 国防総省の案件がとれたのが一番大きかったと思います。入札の要件として軍事用の規格の基準をクリアしないといけなかったんです。当時から当社の無線機はアマチュアでも業務用でも基準をクリアしている自信はあったのですが、国防総省の調達基準に合わせて作るという条件で設計したものではなかったんです。当社の技術者たちは非常に革新的な設計をやるんですけど、規格を完全にクリアしてほしいとお願いすると、とても保守的で、「クリアする前提で設計し直すと2年かかる」といってなかなか応じてもらえませんでした。

―――どうされたのですか?
 入札の日が目前に迫っていて、このままだとチャンスを逃してしまうとちょっとやきもきしていたんですが、当時アメリカに赴任していた技術者の先輩がいて、その先輩も「今のままの製品でクリアする自信がある」と言ってくれていたんです。それに、私も50州回って当社の無線機や他社の無線機がどういう使い方をされているかを見てきましたから、「絶対に大丈夫だ」という自信がありました。その先輩の技術者がいろいろ調べてくれて、「本社には事後報告ということにして、テストレポートを作れば何とかなる」と言われて「やりましょう!」って。

―――本社に事後報告とは、思い切りましたね。
 本社の了承を得ずに本社から輸入した無線機をそのままオレゴン州の第三者機関に持ち込んでテストしたところ、やっぱり目論見通り基準をクリアできたんですね。そのテストデータをもって国防総省に入札しました。当時の売上げで4000万ドル、40~50億円ぐらいの契約になりました。当時の弊社の売上げは、270~280億円ぐらいでしたから、占める割合はかなりだったと思います。何もしないと大きなチャンスを逃すという状況でしたから。社内ルール通りなら、本社にきちんと話を通して合意を得てというのが本当のやり方なんですけれども…。ルールは外れたかもしれませんけど、いい結果になったと思います。