突然の「自白会見」

年が明け、1997年に入っても「SEC」による野村証券関係者への「質問調査」は膠着状態が続いていた。それでも「SEC」の特別調査官らが黙々と、粘り強く調査を積み重ねるなか、1997年3月6日、野村証券は突如として、緊急記者会見を「兜クラブ」で開くことを発表した。「兜クラブ」は、社会部ではなく経済部が常駐しているため、経済部記者が会見をカバーした。

筆者は社会部で会場からのライブ映像を注視した。よく見ると、なぜか記者会見に、野村証券の酒巻英雄社長の姿が見あたらなかった。代わりにいたのは副社長だった。
張り詰めた緊張感のなか、副社長はいきなり、社内調査の結果として、一転して総会屋・小池隆一の実弟の口座に「利益提供」していたことをあっさり認めたのだ。

「一任勘定と呼ばれる違法な取引がありました。総会屋の親族企業の口座を特別に儲けさせるよう、利益を付け替える手口で1993年春から3年間、利益を提供していました」

「実行責任者は総務担当常務と株式担当常務の2人です」

当然のことながら、記者からは副社長に厳しい質問が浴びせられた。
「第一次証券スキャンダルへの反省はないのか」「会社ぐるみではないのか」

突然の「自白会見」に筆者も驚いた。野村証券はそれまで「SEC」の調査に抵抗し、一貫して疑惑を強く否定していたからだ。

検察幹部はこう受け止めた。

「SEC特別調査官らの粘り強い調査で利益提供の手口を解き明かしたことが、野村証券の対応の変化に、影響を与えたことは明らか。捜査の手が迫っていることを察知し、先手を打ったんだと思う」

ただし、野村証券はあくまで常務らの「個人による犯行」であって「会社ぐるみではない」と説明した。しかも、社長が「出張中」という不在のタイミングに、筆者は社長腹心の常務2人を差し出したかのような印象を受けた。もちろん、「SEC」や特捜部の捜査を牽制するような効果はなかった。

逆に、特捜部はこの野村証券の会見以降、捜査のピッチを早めた。「SEC」に対し、さらに詳細な資料を求めるとともに、頻繁に打ち合わせを重ね、「強制捜査着手」のタイミングを探っていくのであった。