「偶発的な武力衝突」に不安の声

中国側のこうした威圧的な行動は、武力攻撃には至らない「グレーゾーン戦術」と呼ばれている。しかし過去には、小競り合いがきっかけで武力衝突に発展したこともある。

南シナ海を挟んで、フィリピンの西側にある国、ベトナム。かつて、中国と領有権をめぐり軍事衝突があった。その生存者を訪ねた。

レ・ミン・トアさんは、1988年に起きたその戦闘で生き残った、数少ないベトナム兵のひとりだ。当時何があったのか、カメラの前で初めて証言した。

元ベトナム兵 レ・ミン・トアさん
「中国船は最初、拡声器で『ここは中国の領土だ、ベトナム人は立ち去れ!』と威嚇していただけでした」

1988年3月、スプラトリー諸島の岩礁で工事をしていたベトナム兵が、その岩礁に国旗を立てた。このとき、ボートで近づいてきた中国兵との小競り合いをきっかけに戦闘が始まったという。

レ・ミン・トアさん
「上官の『同志諸君、戦闘準備だ!』と叫ぶ声が聞こえたと思ったら中国の艦船から砲弾が雨のように飛んできたのです」

中国軍は浅瀬にいたベトナム兵を容赦なく銃撃。ベトナム側は70人を超える死傷者を出した。

レ・ミン・トアさん
「足には銃弾の破片が刺さり、背中全体に火傷を負って意識を失いました。気が付くと負傷した8人の仲間とともに中国船の上で縛られていたのです」

中国の刑務所に収容されたトアさんたちは、3年後の中国とベトナムの国交正常化まで、帰国することができなかった。