「これがいま私たちの海で起きている現実」

いま中国とフィリピンの、対立の最前線ともいわれているのが、スプラトリー諸島のシエラマドレ号だ。フィリピンが実効支配の拠点として、意図的に座礁させた古い軍艦。ここに兵士が常駐している。そして、この軍艦の撤去を求める中国との間で、たびたび小競り合いが起こっている。

2024年3月にも、シエラマドレ号に物資を運んでいたフィリピンの補給船が放水を浴びせられた。その時の船内の映像をJNNは入手した。

乗組員「もうやめてくれ!神様!」
乗組員「救護班はいるか!」

乗組員4人が負傷。船は航行不能となった。

「(中国は)私たちのフィリピンから出ていけ!」

フィリピンで対中感情が悪化する中、ある市民団体が前例のないプロジェクトを立ち上げた。発起人のひとり、ラファエラ・デービッドさん。シエラマドレ号に補給物資を届けるという、民間人としては初めての試みだ。

プロジェクトの発起人 ラファエラ・デービッドさん
「この計画は、自分たちの海を守るために何か貢献したいと考えている市民たちが支えています」

深夜のパラワン島から出発。私たちは、このプロジェクトに同行した。

村橋佑一郎 記者
「今からですね、南シナ海に向かうために大型の民間船に乗り換えていきます。このように重装備した沿岸警備隊の隊員もいますね」

シエラマドレ号までは、丸2日かかる航程だ。船上での体感温度は35℃を超え、暑さのあまり倒れてしまう人も。過酷な旅だが、学生や会社員、漁師などラファエラさんの呼びかけにたくさんのボランティアが集まっていた。

同じ時、近くの海域で、またしても中国との小競り合いが起こった。フィリピン船への放水。さらに、両国の船が衝突する事案も発生した。

村橋佑一郎 記者
「中国艦船が南シナ海でフィリピン船に放水したとの情報が入りまして、この船内でも緊張感が高まっています」

そして、出港からおよそ15時間。護衛している沿岸警備隊の船の向こうに中国の艦船が姿を見せた。

村橋佑一郎 記者
「あちら、中国海軍の軍艦だということです。こちらに近づいてきていますね」

中国のミサイル駆逐艦だ。船内は一気に緊迫する。さらに前方には、進路を塞ぐように中国海警局の船が。気が付けば、私たちは中国船4隻に囲まれていた。

フィリピンの沿岸警備隊から無線が入る。

フィリピン沿岸警備隊からの無線
「ラファエラさん、針路を左側にしてください。そのままいけば中国海軍とぶつかってしまいます」
船長
「中国側からの無線や通信は何もない。どんどん近づいてきている」
ラファエラさん
「ちょっと深呼吸しましょう」

このまま進めば衝突する危険性が高い。ラファエラさんは計画をあきらめ、引き返すことを決めた。

ラファエラさん
「中国の行動はとても腹立たしいです。これがいま私たちの海で起きている現実なのだと失望しています」