対立エスカレートの背景に…フィリピンの外交路線の転換

南シナ海での漁獲量は10年ほど前まで年間32万トンを超えていたが、近年は25万トンほどに落ち込んでいる。その要因の一つに、こうした中国による妨害が挙げられている。
漁師たちが暮らすパラワン島の村を訪ねた。
南シナ海の漁師、セザール・ボデゴンさん。収入は、いま1週間漁に出ても7000円程度、以前に比べてかなり減ったという。

セザール・ボデゴンさん
「漁に出るのはとても緊張します。中国船が何かしてきても誰も守ってくれません。中国が南シナ海を支配してしまえば、私たち漁師はすべてを失うでしょう」
シーレーンの要衝とされ、海底資源も豊富に眠る南シナ海は、中国やフィリピンのみならず、マレーシアやベトナムなど、沿岸諸国がそれぞれ領有権を主張している。

中でも中国は、「九段(きゅうだん)線」という独自の境界線を引き、“歴史的権利がある”と主張してきた。その主張は2016年、国際的な仲裁裁判で退けられたのだが、中国はこの判決を無視。

フィリピンの排他的経済水域と重なるスプラトリー諸島では岩礁を埋め立て、いくつもの人工島を造成。滑走路やミサイル施設を整備し、軍事拠点化を進めた。いま、両国はかつてない緊張状態にあるという。
4月30日も、中国海警局がフィリピン船に放水。さらに船を衝突させる事案が起こっている。対立がエスカレートしている背景にあるのは、フィリピンの外交路線の転換だ。

前のドゥテルテ政権は、同盟国アメリカと距離を置き、中国との経済協力を推し進めた。ただ、その裏では、中国の海洋進出を黙認していたと言われている。
前政権で大統領報道官を務めたハリー・ロケ氏。彼は、私たちのインタビューに応じ、当時、中国との間に“紳士協定”があったことを明かした。

元大統領報道官 ハリー・ロケ氏
「現状を維持する“紳士協定”で、私たちは平和を手にしていました。中国からの投資や観光客も増えていたのです。今の緊張状態が続けば、軍事衝突する可能性があることを現政権が認識していると願うばかりです」

一方、今のマルコス大統領は、領土問題では中国に一切妥協しない姿勢を示し、アメリカとの関係強化を優先している。