ジュエリー作りのルーツ 初作品はホームセンターで買った工具で 

——それでは少しさかのぼり、小松さんがジュエリーを作り始めたきっかけを教えてください。
外国をフラフラしていた時に、友人の彼女がタイのジュエリー工場から商品を卸す仕事をしていたので、「工場見学」させてもらったんです。その時、初めてジュエリーの製造工程を見ました。そこでジュエリーに興味を持ち、友人と日本でジュエリー屋さんを作ろう、となったのが18年ぐらい前です。

——その時点ではまだご自身で一点物は作っていなかったのでしょうか?
その時は、馴染みのあった鎌倉に店舗を借りました。ところがオープンする直前に友人からやっぱりやめたいと言われてしまったんです。大家さんに出店が白紙になる事を説明しに行ったら、「1回造った『船』は最後まで走らせろ」と説得されました。そこでお店をスタートしてみて、これからどういうお店を作っていこうかと考えた結果、ジュエリーを手作りしてみようと思い立ちました。その時揃えた道具...トンカチはいまだに使っています。
溶接ができなかったので、最初はワイヤーで指輪を作りました。でもやっぱり溶接しないと作りたいものを形にできないと思い、御徒町の道具屋さんに「これどうやって溶接するんですか?」と聞きに行きましたが、初めは「いや、学校にいってください」と断られてしまったんです。その時の道具屋さんには、今でも大変お世話になっており、今回のドラマにもすごく協力してくれています。

——そこからお店を軌道に乗せていった過程を教えてください。
当初は自分で作ったリングをノベルティとしてあげていたんです。ある日、とある高校生くらいの子から僕が手作りしたリングを売ってほしいと言われました。売り物ではないと断ったのですが、断りきれず「990円でいいよ」と言ったのがきっかけです。そこから目の前で作って売るというスタイルが広まり、あれよあれよという間に、たくさんのお客様に来ていただけるようになりました。

——どのような客層の方が来られるのでしょうか?
様々なお客様が来てくださいますね。最近では外国のお客さまもすごく多いんですよ。そうした客層は予想していなかったですね。やっぱり他の文化を持つ方々から注文されることや、僕が作ったものを褒めていただくと、すごくテンション上がります。やる気の源になります。

即興性が生む「美しさ」。ジュエリーへの思いと見据える将来像

——ジュエリー作りでこだわっている点や哲学はありますか?
お客さまから作ってほしいと依頼されたら、お客さまに似合うように作ります。自分の中の「発掘作業」ではないですが、具体的なオーダーがないときはだいたい脱線していって、最終的に形になる感じが面白いんです。基本的に、「意図してないもの」が好きなんです。今、お店に置いているこの木の机にも、使っていくうちにできた傷があったり。そういうものにすごくインスピレーションを受けます。ゴールをあまり設定せずに瞬間瞬間に「おっ」と生まれる副産物を大切にしたいです。

——思いもよらないお客さんとのエピソードはありますか?
あるとき、お店に突然入って来られたお客さまから、「蜂とバラ」とオーダーされました。挑みがいがあるオーダーでしたね。それで表現したのは、蜂の巣のヘキサゴンの形と、バラはちょっと織りなす感じで金属を折って作りました。とても満足していただけました。指輪を目の前で作って出すことによってちょっと感動が生まれる。それは種をまいて育てる「田植え作業」のようなものだなと思っています。

——ジュエリーに携わってきた中で、変化や、今感じていることはありますか?
当初は「エリザベス女王に着けていただく指輪を作ろう」と志を高くゴールを決めていましたが(笑)、この先はもう少し時間をかけて作れるものをやっていきたいなと思い、もっとドメスティックに、本当にやりたかったことに原点回帰していくつもりです。

——そんな思いを抱く中で、今回テレビドラマという広く開かれた世界のお話が来たんですね。
そうですね。自分の中では王道と「逆」を行く癖のようなものがあるんですけど、今回はいつもの延長線上にはないチャレンジとして、一度は受け入れてみるべきだなと思いました。僕1人で始めたお店も今はスタッフがいて、「gram」はもう僕だけのものじゃないと思うので。テレビやメディアに出ることで、スタッフたちにもいい刺激になるんじゃないかなと思っています。想定外のことが降りてきたり、社会とのつながりができたりするのもいいなと思っています。

——最後に、「指輪デビュー」をしたことがない人が指輪を買う際のアドバイスを。
指輪は、体のパーツの中でもよく見える手に着けるものなので、単純にテンションが上がるものを選ぶといいと思います。形もそうですし、もっと簡単に言えば、例えばシルバーかゴールドか、やはり自分で見て落ち着く色がいいですよね。あとは、いつも着ている洋服や自身のテイストに合わせて着けられるもの。プレーンでオーソドックスな形だとしても、例えば太さを、2ミリではなく3ミリにするとか、ちょっとした「違和感」を出すのもお薦めです。